遺産分割の方法とは?協議から調停・審判までの流れ
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ご家族が亡くなられ、相続が開始したとき、多くの方が「円満に手続きを進めたい」と願っておられるはずです。
しかし、遺産分割には法律上のルール(遺言や法定相続分)がある一方で、ご家族お一人お一人の「想い」があります。
「遺言書の内容が、どうも納得できない」 「長年、親の面倒を見てきたことを考慮してほしい」 「そもそも、他の相続人とどうやって話し合えばいいのか分からない」
私は福井で弁護士として15年以上、こうした相続のお悩みに数多く向き合ってきました。
遺産分割は、単なる財産の分配ではありません。ご家族のこれまでの関係や、それぞれの今後の生活設計も関わる、非常にデリケートな問題です。
だからこそ、不安や疑問を抱えたまま話し合いを進める前に、まずは「法的に、どのような解決のステップがあるのか」という全体像を知っておくことが、冷静な解決への第一歩となります。
・まず行うべき「遺産分割協議」とは、どう進めるのか?
・もし、話し合いがまとまらなかったら、どうなるのか?
・裁判所の手続きである「調停」や「審判」とは、一体何をするのか?
この記事では、遺産分割の基本的なルールから、協議が整わなかった場合の法的な手続きまで、解決に至るまでの「道筋」を、相続実務の専門家である弁護士が分かりやすく解説します。
ご自身の状況が今どの段階にあるのか、次に何をすべきかを整理するために、ぜひお役立てください。
目次
遺産分割の基本ルールと、現実の「難しさ」
遺産分割の方法には、法律で定められた基本的なルールが2つあります。
1.遺言
1つ目は「遺言書があれば、原則として遺言書通りに分ける」というルールになります。
被相続人(亡くなった方)が生前に遺言書を作成していた場合、その遺言書に記載された内容に従って遺産を分割することになります。遺言書は、被相続人が遺した最終的な意思表示ですから、法律上も最大限尊重されるべきものとされています。
2.法定相続分
2つ目は「遺言書がなければ、法律で定められた相続分(法定相続分)を目安に分ける」というルールになります。
遺言書がない場合は、相続人全員で話し合って分割方法を決めることになりますが、その際の目安となるのが「法定相続分」です。これは民法で定められた相続の割合のことで、例えば「配偶者と子ども1人」が相続人であれば、配偶者が2分の1、子どもが2分の1を相続する、といったように相続人の組み合わせによって割合が決まっています。
ただし、遺言書がない場合の話し合い(遺産分割協議)では、必ず法定相続分の通りに分けなければならないわけではありません。相続人全員が納得すれば、法定相続分とは異なる割合で分けても構いませんし、特定の相続人が何も相続しない、という取り決めも可能です。
現実の難しさ(ルールに従って簡単に相続が進むというわけではないこと)
しかし現実には、この2つのルールに従って簡単に相続が進むとは限りません。
たとえば遺言書があったとしても、「遺言書の内容に納得ができない」「自分にも最低限の取り分が保障されているはずだ(遺留分を請求したい)」など、遺言通りの相続を望まない相続人が出てくることがあります。「遺留分」とは、一定の相続人(兄弟姉妹を除く)に法律上保障された最低限の相続分のことで、遺言によっても奪うことができない権利です。
また、遺言書がないケースでも、法定相続分通りに分けることに不満を持つ相続人が出てくることは珍しくありません。
「自分だけが長年、親の面倒を見てきたのだから、その分多くもらいたい」
「他の兄弟は生前に多額の援助を受けていたはずだ」
こうした主張が出ると、相続人同士の話し合いは難しくなってしまいます。
このように、法律上のルールと、ご家族それぞれの「想い」や「事情」がぶつかり合ったとき、遺産分割は複雑なトラブルへと発展してしまうのです。 こうしたトラブルを解決するためには、法的な手続きの段階を踏んで、一つずつ問題を整理していく必要があります。
遺産分割協議とは?その進め方

遺言書がない場合や、遺言書があっても相続人全員の合意で異なる分け方をする場合には、まず「遺産分割協議」を行う必要があります。 遺産分割協議とは、相続人全員が参加して、遺産の分割方法や相続割合を決めるための「話し合い」のことです。
この遺産分割協議を適切に進めるためには、話し合いを始める前に、重要な2つの準備が必要となります。
1.相続人の確定
1つ目の準備は「相続人の確定」になります。
遺産分割協議は、相続人全員が参加しなければ法的に有効となりません。そのため、まずは「誰が相続人になるのか」を戸籍上で確定させる必要があります。亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本などをすべて取り寄せて、相続人に漏れがないかを確認します。
もし、この調査を怠り、後から相続人の見落としが発覚した場合、せっかく成立した遺産分割協議が無効となり、すべてやり直しになってしまうため、慎重な調査が求められます。
2.相続財産の調査
2つ目の準備は「相続財産の調査」になります。
何を分けるのか(遺産の全体像)が分からなければ、話し合いのしようがありません。相続財産には、預貯金や株式、不動産といった「プラスの財産」だけでなく、借入金やローンなどの「マイナスの財産」も含まれます。被相続人のご自宅にある通帳や権利証、郵便物などを確認するほか、金融機関や証券会社、保険会社などへ問い合わせを行い、相続財産に漏れがないようにしっかりと確認しましょう。
遺産分割協議の進め方
これらの準備を経て、相続人と相続財産がすべて確定したら、いよいよ遺産分割協議(話し合い)を行います。
誰がどの財産を相続するのか、あるいはどのように分けるのかを、相続人全員で話し合って決めていきます。相続人の居住地が離れている場合など、全員が同じ場所に集まるのが難しければ、電話やメール、手紙などのやり取りで進めても問題ありません。
ただし、この遺産分割協議は、相続人同士が直接話し合いをするため、最もトラブルが起きやすい段階でもあります。 長年の家族関係の中で積み重なってきた様々な感情が、相続をきっかけに一気に噴き出してしまい、冷静な話し合いができず、感情的な対立が激しくなってしまうケースも決して珍しくないのです。
遺産分割協議書の作成について

相続人全員による遺産分割協議で、無事に分割方法が決まったら、その合意した内容をもとに「遺産分割協議書」を作成します。
遺産分割協議書とは、その名の通り、遺産分割協議で相続人全員が合意した内容を詳細にまとめた書面のことです。
この遺産分割協議書の作成は、法律上の義務ではありません。
しかし、相続が「円満に」完了したことを証明する重要な書類となりますので、協議がまとまったら必ず作成しておくべきです。 なぜなら、不動産の名義変更(相続登記)や、預貯金の解約・払い戻し、あるいは相続税の申告といった様々な相続手続きの場面で、この遺産分割協議書の提出を求められるからです。
それ以上に大切な役割として、「相続人同士の将来的なトラブルを防止する」という目的があります。 口約束だけでは、後になって「言った」「言わない」といった水掛け論になってしまう危険性があります。合意した内容を明確に書面にし、全員で確認することで、その後の紛争を防ぐことができるのです。
遺産分割協議書には、誰が(どの相続人が)、どの財産を、どれだけ相続するかを、具体的かつ明確に記載する必要があります。不動産であれば登記簿謄本通りに、預貯金であれば銀行名・支店名・口座番号まで正確に記します。 そして最も重要なのが、合意した内容の末尾に、相続人全員が署名し、実印を押印することです。これにより、全員がその内容に間違いなく同意した、という法的な証拠となります。
また、作成時には、後から追加の財産が見つかるケースも想定しておくべきです。協議の時点ですべての財産を把握したつもりでも、後から預金口座や有価証券が判明することはよくあります。 そのような場合に備えて、「本書に記載のない財産が後日判明した場合は、特定の誰かが相続する(あるいは、法定相続分で分ける等)」といった取り決めも記載しておくと、その財産のためだけに再度遺産分割協議をやり直す手間を防ぐことができます。
遺産分割協議書を作成する際のポイント
遺産分割協議書を作成する際には、いくつか注意すべきポイントがあります。
まず、遺産分割協議書の作成に期限はありませんが、遺産分割協議は相続開始後できるだけ早めに行っておくのが望ましいです。一部の相続手続きには期限があり、たとえば相続放棄の手続きは相続開始を知ってから3ヶ月以内、相続税の申告は10ヶ月以内に行わなければなりません。遺産分割協議によって相続財産の分割方法を確定しておくと、その後の相続手続きがスムーズに進められます。
次に、遺産分割協議書は1通だけではなく、相続人の数だけ用意して全員で保管しておく必要があります。全員がそれぞれ保管しておけば、将来的に相続に関する問題が生じた場合にも、相続した財産の内訳を容易に証明できるようになります。印鑑証明書も添付し、同じ内容の遺産分割協議書を各相続人が1通ずつ所持しておくようにしましょう。
そして重要な注意点は、遺産分割協議書は一度作成するとその後の変更が難しいということです。後から変更したい箇所が見つかった場合でも、一人の相続人が勝手に修正を加えることはできません。遺産分割協議書の内容を変更する際は再度相続人全員による合意が必要となり、相続財産の名義変更手続きや相続税申告の遅れにもつながります。不安がある場合には、必要に応じて専門家のアドバイスを求めるのが賢明です。
協議がまとまらない場合の解決方法
遺産分割協議を行っても、全員が納得し合意できるとは限りません。相続人間で意見が対立し、どうしても話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所での手続きを利用することができます。具体的には、遺産分割調停、そして調停でも解決しない場合には遺産分割審判という流れで進んでいきます。
遺産分割調停について
遺産分割調停とは、家庭裁判所で調停委員会を介して他の相続人と遺産分割の話し合いをする方法です。間に調停委員が入ってくれるので、対立している相手と直接顔を合わせずに話し合いを進めることができます。直接話すと感情的になってしまう場合でも、落ち着いて話し合うことが可能になります。
調停委員は、第三者の立場で公平に当事者の話を聞き、解決のための提案をしてくれることもあります。そのため、直接の話し合いで合意できなかった場合でも、調停で合意できる可能性があります。調停委員という中立的な立場の人が関与することで、感情的な対立を和らげ、冷静な判断を促す効果があるのです。
調停を申し立てるときには、原則として相続人全員が当事者になる必要があります。調停は月1回くらいの頻度で開催されて話し合いを進めます。合意ができたら調停が成立して、裁判所で調停調書が作成されます。調停調書を使うと、不動産の相続登記や預貯金の払い戻しなども可能となります。
遺産分割審判について
調停でも合意ができない場合には、審判という手続きに移ります。審判は話し合いの手続きではなく、審判官(裁判官)が遺産分割の方法を決定する手続きです。調停が当事者の合意を目指すのに対し、審判は裁判所が強制的に結論を出すという点で大きく異なります。
審判で自分の望む方法での遺産分割を認めてもらうためには、法律的に適切な主張を行うことと、自分の主張を裏付けるような証拠を提出することが必要です。単に「自分はこうしたい」という希望を述べるだけでは不十分で、なぜそのような分割方法が法律上妥当なのかを、法的根拠を示しながら説明しなければなりません。
弁護士に相談すべき理由
調停や審判になった場合においても、法律に基づいた適切な主張を行わなければ、調停委員や裁判官は味方になってくれません。専門的な法律知識がないまま自分だけで対応しようとすると、本来得られるはずだった権利を主張できず、不利な結果に終わってしまう可能性があります。
審判になったときには特に専門的な対応が必要ですから、弁護士に依頼する方が良いでしょう。自身の利益を守るためにも、調停や審判の前には弁護士に相談されることをお勧めします。弁護士は相続問題の経験が豊富ですから、どのような主張をすれば有利になるのか、どのような証拠を集めればよいのかを的確にアドバイスしてくれます。
まとめ

遺産分割には遺言による相続や法定相続というルールがありますが、実際にはこのルール通りにスムーズに進むケースばかりではありません。相続人間で意見が対立した場合には、遺産分割協議、遺産分割調停、遺産分割審判という段階的な解決方法が用意されています。
遺産分割協議では、相続人全員で話し合って分割方法を決定し、合意した内容を遺産分割協議書にまとめます。協議がまとまらない場合には家庭裁判所での調停を利用し、それでも解決しない場合には審判で裁判所に判断してもらうことになります。
どの段階においても、専門的な知識と経験が必要となる場面が数多くあります。相続人同士の感情的な対立を避けるため、また法律に基づいた適切な主張を行うためにも、早めに弁護士に相談することが解決への近道です。
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