寄与分
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親御様が亡くなり、相続(遺産分割)の話し合いが始まった際、 「自分は長年、認知症の親の介護を必死に続けてきた」 「遠方に住んでいてほとんど何もしてこなかった他の兄弟姉妹と、遺産の取り分が法律通り『平等』だと言われても、到底納得がいかない」 このように感じる方は多いのではないでしょうか。
同居して日常の面倒を見てきた方や、ご自身の時間を犠牲にして介護に尽くしてきた方が、「その貢献を少しでも遺産に反映してほしい」と考えるのは、ごく自然な感情かもしれません。
弁護士法人ふくい総合法律事務所の代表弁護士、小前田です。 私たちは、ここ福井の地で、これまで多くの相続問題のご相談を受けてきました。
その中で、特定の相続人の方が、亡くなったご家族のために介護や家業の手伝いなどで多大な貢献をしてきたにもかかわらず、その貢献が他の相続人に理解されず、遺産分割で悔しい思いをされている場面に何度も立ち会ってきました。
こうした貢献を法的に評価し、相続分に反映させる制度として、民法には「寄与分(きよぶん)」という制度が用意されています。
しかし、この「寄与分」は、ご自身が「これだけやったのだから」と考えている貢献が、そのまま自動的に認められるわけではなく、法律上の厳しい要件をクリアする必要があります。
今回の記事では、この「寄与分」とはどのような制度なのか、どのような場合に認められ、逆になぜ認められにくいのか、その具体的なポイントについて、相続問題に詳しくない方にも分かりやすく詳しく解説していきます。 ぜひ参考にしてみてください。
目次
1.相続における「寄与分」とは?
そもそも「寄与分」とは、どのような制度でしょうか。
寄与分とは、共同相続人(亡くなった方の遺産を相続する権利のある人たち)の中に、亡くなった方(被相続人)の財産の「維持」または「増加」について、「特別の寄与」つまり特別な貢献をした人がいる場合に、その貢献分を考慮して、法律で定められた相続分(法定相続分)よりも多くの遺産を受け取ることができる制度のことを指します。
例えば、相続人が3人の子供であれば、原則として遺産は3分の1ずつ平等に分けることになります。 しかし、もし相続人のうちの1人だけが、亡くなった親の事業を無給で手伝い続けて財産を増やしたり、親の介護費用を肩代わりして財産の減少を防いだりしていた場合、他の相続人と全く同じ取り分というのは不公平だと感じられるでしょう。
寄与分の制度は、このような相続人間の実質的な不公平を是正し、公平を図るために設けられています。
2.【具体例】長男の介護は「寄与分」として認められるか
ここで、具体的な例を見てみましょう。
90歳のAさん(男性)には、長男X・次男Y・三男Zの3人の子供がいます。 Aさんは、妻に先立たれており、現在、認知症を患っています。 長男Xは、認知症のAさんを自宅に引き取って長年介護し、 病院の付添いや日常生活の世話をしてきました。 その後、Aさんが死亡したため、 その際、長男Xは、 しかし、次男Yと三男Zは、 |
まさに、このようなケースは相続の現場で非常によく起こる紛争です。
長男Xさんの主張は、法律的には寄与分を主張していることになります。
しかし、次男Yさんと三男Zさんの言う「長男としての責任の範囲内」という反論も、法的に無意味というわけではありません。
では、長男Xさんの「介護」は、法的に「寄与分」として認められるのでしょうか。 その最大のポイントは、次の章で解説する「特別の寄与」にあたるかどうか、という点にかかっています。
3.寄与分が認められるための「特別の寄与」とは?
前の具体例では、長男Xさんの介護が寄与分として認められるかが争点となりました。
このとき、法律的に最も重要となる判断基準が、その行為が「特別の寄与」にあたるかどうかです。では、この「特別」とはどういう意味でしょうか。
これは、単に「同居して面倒を見ていた」とか「他の兄弟よりは親の世話をした」という程度では足りません。 法律上、親子や兄弟姉妹などの親族間には、互いに助け合う義務(これを「扶養義務(ふようぎむ)」と言います)が定められています。
そのため、寄与分が認められる「特別の寄与」とは、この親族として通常期待される助け合いのレベルを明らかに超える貢献でなければならないのです。
例えば、時々様子を見に行ったり、通院の送迎を手伝ったり、一般的な家事を行ったりする行為は、残念ながら親族間の通常の扶養の範囲内と判断されやすく、「特別」の貢献とまでは評価されにくいのが実情です。
さらに重要な点がもう一つあります。 それは、その貢献(寄与行為)によって、亡くなった方(被相続人)の財産が「維持された」または「増加した」という結果がなければならない、という点です。
具体例の長男Xさんのケースで言えば、「長男Xが介護をした」という事実だけでは不十分です。
「長男Xさんが、本来であれば介護サービスや施設入所などで(Aさんの財産から)支出されるはずだった費用を負担させずに介護を続けた。その結果、Aさんの財産が減らずに済んだ(=維持された)」という、行為と財産の維持・増加との間に明確な因果関係を説明する必要があります。
このように、寄与分を主張するためには、「扶養の義務を超えた特別な貢献」があり、かつ「それによって財産が守られた(増えた)」という2点を、客観的に証明していく必要があるのです。
4.実務で寄与分(特に介護)が認められにくい理由
前の章で解説したように、寄与分として認められるには「特別の寄与」があったことを証明する必要があります。
しかし、実際の裁判実務(家庭裁判所での調停や審判)において、特に介護(療養看護型)の寄与分が認められるケースは少なく、たとえ認められたとしても、ご本人が期待していたほどの金額にはならないことが多い、という実情があります。
なぜ、これほどまでに介護の寄与分は認められにくいのでしょうか。 主な理由として、次の3点が挙げられます。
理由1:「特別の寄与」のハードルが非常に高い
法律は親族間の助け合い(扶養義務)を「通常の義務」の範囲内と考えています。
そのため、裁判所が「特別」と認定するハードルは非常に高く設定されています。
ご本人にとっては「自分だけが苦労して介護した」という思いが強くても、法的には「親族として期待される範囲内の行為」と判断されてしまうケースが少なくありません。
理由2:客観的な証拠資料を揃えるのが困難
寄与分を主張する側が、その貢献度を客観的な証拠で証明しなければなりません。
しかし、介護というのは日々の生活の中で行われるため、「いつ、どのような介護を、どれくらいの時間行ったのか」を後から証明するのは困難です。
介護日誌や、立て替えた費用の領収書、要介護認定の通知書などが証拠となり得ますが、こうした資料を長期間にわたって完璧に揃えているケースは稀です。
理由3:他の相続人との間で感情的な対立が起こりやすい
寄与分を認めるということは、その分、他の相続人の遺産の取り分(法定相続分)が減ることを意味します。
そのため、寄与分を主張すると、他の相続人から強い反発を受けることが多く、感情的な対立に発展しがちです。 「介護していた分、親から生前に援助を受けていたのではないか」「同居していたのだから家賃がかからず得をしていたはずだ」といった反論が出て、話し合いがまとまらなくなることも珍しくありません。
これらの理由から、介護による寄与分の主張は、法的に見ても、また感情的な面から見ても、難しい交渉となりやすいのです。
5.寄与分が認められる可能性を高めるケースとは?
では、どのような場合であれば、介護(療養看護型)の寄与分が認められる可能性が高まるのでしょうか。
先ほど、親族間の「通常の義務」を超える必要があると解説しました。
一つの目安として、「要介護2以上」の状態であったかどうかが挙げられます。 これは、要介護2以上の状態になると、一般的に介護事業者などへ有料でサービスを依頼する必要性が高まるためです。
つまり、「もしご家族が介護しなければ、介護施設への入所やヘルパーの利用などで、本来有料のサービスを受ける必要があった状態」にもかかわらず、相続人の一人がそれを無償(あるいは非常に低い生活費程度の負担のみ)で引き受けた場合、その行為は「特別の寄与」として評価される可能性が高まります。
その際は、ご自身がどれほどの介護を行ったのかを客観的に示すため、
・介護日誌(日々の介護内容の記録)
・要介護認定の通知書やケアプラン
・病院の診断書
・立て替えた医療費や介護用品の領収書
といった証拠資料をできるだけ揃えておくことが重要です。
なお、寄与分が認められるのは介護(療養看護型)だけではありません。 例えば、以下のようなケースも寄与分が認められる可能性があります。
・家業従事型:
亡くなった方が経営していた商店や農業などを、相続人の一人が無給または著しく低い給与で手伝い、財産の維持・増加に貢献したケース。
・金銭出資型:
亡くなった方の借金を肩代わりして返済したり、事業のために資金を提供したりして、財産の減少を防いだ、あるいは増加させたケース。
ご自身の貢献がこれらの「特別の寄与」にあたるかどうかは、専門的な判断が必要となります。
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【まとめ】

今回は、相続における「寄与分」の制度について解説しました。
ご自身のケースが寄与分として認められる可能性があるのか、また、他の相続人に対してどのように主張し交渉を進めていけばよいのかを判断するには、法律的な専門知識と客観的な証拠が不可欠です。
遺産分割協議が始まる前に、「自分の長年の貢献を、法的に正当な形で評価してほしい」と真剣にお悩みの方は、証拠が散逸してしまったり、他の相続人との関係がこじれてしまったりする前に、お早めに弁護士へご相談ください。
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