相続の代償分割とは?メリットと注意点
〇この記事を読むのに必要な時間は約8分48秒です。
遺産相続では、相続人同士で財産をどのように分けるかが大きな課題となります。
その中で「代償分割」という方法は、不動産など分割しにくい財産がある場合に有効な選択肢です。
しかし、代償分割が具体的にどのような方法なのか詳しく知らないという人も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、遺産相続における代償分割の概要や選択すべきケース・メリット・注意点を詳しく解説します。
代償分割による遺産分割を検討している人は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
遺産相続における「代償分割」とは?
「代償分割」とは、遺産相続における遺産分割方法の一つです。
相続で遺産分割を行う方法には、以下の4つがあります。
遺産分割方法 | 概要 |
現物分割 | 遺産をそのまま現物で分ける方法 |
換価分割 | 遺産を売却して現金化し、その現金を分ける方法 |
代償分割 | 特定の相続人が遺産を取得し、ほかの相続人に代償金を支払う方法 |
共有分割 | 遺産を共有のまま維持し、相続人全員で管理する方法 |
代償分割は、特定の相続人が遺産の一部またはすべてを取得し、その代わりにほかの相続人へ現金などで代償金を支払う方法です。
一般的には不動産や事業資産など、物理的に分割が困難な遺産がある場合に用いられます。
遺産分割方法を決定し相続人間で合意すると、あとから変更するのは難しいケースが多いです。
そのため、代償分割を検討する際はほかの分割方法とも比較しつつ、相続状況に適した選択かどうかを考慮しましょう。
代償分割を選択した方がいい3つの相続ケース
代償分割は、遺産の性質や相続人の状況によって有効な選択肢となる場合があります。
代償分割を選択した方がいいといえる代表的な相続のケースは、次のとおりです。
・遺産の多くが不動産である場合
・相続した不動産に住み続けたい場合
・遺産を相続する人に財産がある場合
3つの具体的なケースについて、以下で詳しく見ていきましょう。
遺産の多くが不動産である場合
遺産の大部分が不動産などの分割が難しい財産である場合、代償分割は有力な方法です。
不動産は価値が高い一方で、物理的な分割ができないため、相続人同士でトラブルになりやすい傾向があります。
代償分割では、不動産を一人の相続人が取得し、その価値に見合う代償金をほかの相続人に支払うことで公平に分割できます。
また、代償分割であれば不動産を無理に売却する必要がないため、そのまま活用が可能です。
相続した不動産に住み続けたい場合
相続した不動産に住み続けたい相続人がいる場合、代償分割は有効です。
たとえば、被相続人の家族が長年住み慣れた家を相続し、そのまま住み続けたいケースもあるでしょう。
不動産をそのまま活用する際、換価分割ではすべての財産を売却する必要があるため希望が叶いません。
代償分割であれば、不動産を取得した相続人がほかの相続人に代償金を支払うことで、住み続けながら相続手続きを完了できます。
家族の思い出が詰まった家や重要な資産を維持したいと考えている人は、代償分割を検討してみましょう。
遺産を相続する人に財産がある場合
遺産を取得する相続人に代償金を支払うだけの財産や収入がある場合、代償分割がスムーズに進みやすくなります。
代償分割では、取得した遺産とは別に現金などを用意し、ほかの相続人に支払わなければなりません。
しかし、十分な資産を保有している相続人であればすぐに代償金を準備できます。
代償分割によって、相続財産を効率的に活用しながらほかの相続人との公平性を保てるでしょう。
遺産相続で代償分割を選択するメリット
遺産相続で代償分割を選択すると、次のようなメリットがあります。
・代償金を支払うことで公平に遺産分割ができる
・不動産を売却せずそのまま残せる
・相続税負担を軽減できる可能性がある
代償分割は、特定の資産を効率的かつ公平に分配できる方法として利点があります。
具体的なメリットについて、以下で一つずつ確認していきましょう。
代償金を支払うことで公平に遺産分割ができる
代償金を支払うことで公平に遺産分割ができるのは、代償分割を選択する上で大きなメリットといえます。
とくに、不動産のように物理的に分割できない資産が遺産に含まれる場合、公平な財産の分配が困難になりやすいです。
しかし、特定の相続人がその不動産を取得し、他の相続人に代償金を支払うことで全体のバランスを取れるようになります。
代償分割を活用すれば、相続人全員が納得のいく形での遺産分割が可能となり、トラブルの防止につながるでしょう。
不動産を売却せずそのまま残せる
代償分割は、不動産を売却せずに相続人の手元に残せるメリットがあります。
相続では、家族が長年住んできた家や事業用の不動産など、手放したくない不動産があるケースも多いでしょう。
売却によって家族の歴史や事業の基盤を失いたくない場合でも、代償分割を行えば現物のまま相続できるようになります。
ほかの相続人に対して代償金を支払うことで、大切な資産を維持しながら円満な相続を実現できる点もメリットです。
相続税負担を軽減できる可能性がある
代償分割によって土地や建物を相続した際、「小規模宅地等の特例」によって相続税負担を軽減できる可能性があります。
たとえば、被相続人と同居していた相続人が要件を満たす自宅を相続すると、自宅敷地の評価が80%減額され税負担が減少します。
小規模宅地等の特例を適用できれば、相続人の経済的負担が抑えられ、よりスムーズに相続手続きを進められるでしょう。
なお、特例の適用要件は細かく規定されているため、詳しくは別途確認するようにしてください。
相続で代償分割を選択する際に押さえておくべき注意点
代償分割にはメリットがある一方で、注意すべきポイントもいくつか存在します。
・代償金を支払う相続人に資金力が必要
・代償金の算出でトラブルになるリスクがある
代償分割をスムーズに行うためには、事前の準備と慎重な対応が欠かせません。
以下では、とくに重要な注意点を2つ挙げて解説します。
代償金を支払う相続人に資金力が必要
代償分割を行う際、遺産を取得する相続人はほかの相続人に代償金を支払わなくてはなりません。
代償金は相続人の個人の資産から用意する必要があるため、準備できる資金力がない場合は代償分割の実行が困難となるでしょう。
とくに高額な不動産を相続する場合は、代償金の金額も大きくなりやすいです。
代償分割による相続を検討する際は、相続人に支払い能力があるかどうかを事前に確認する必要があります。
また、代償金を確保するために借入を行うケースでは、返済計画や負担額も考慮した上で検討しましょう。
代償金の算出でトラブルになるリスクがある
代償分割を進める際、代償金の金額をどのように算出するかは重要なポイントです。
遺産に不動産や株式など評価が複雑な財産が含まれている場合、その価値をめぐって相続人同士で意見が対立する可能性があります。
また、不動産の評価方法には公示価格・路線価・実勢価格など複数の基準があり、それぞれで金額が異なる場合があります。
相続人間のトラブルを防ぐためには、専門家への相談も検討しましょう。
遺産相続の代償分割で不安があれば専門家に相談しよう
代償分割は、特定の相続人が遺産を取得しつつほかの相続人にも公平な分配を可能にする方法です。
しかし、代償分割を行うには資金力の確認や代償金の適正な算出が必要となります。
とくに価値の高い相続財産が含まれる場合には、相続人間の話し合いが困難になるケースもあるでしょう。
このような状況で適切な対処をするためには、弁護士や税理士・司法書士といった専門家のサポートが有効です。
公平でスムーズな相続を実現させるためにも、不安を感じた時点で早めに相談しましょう。

弁護士法人ふくい総合法律事務所

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