相続人が認知症の場合の対応|成年後見制度のポイント

 

この記事を読むのに必要な時間は約8分29秒です。

相続が発生し、相続人に認知症を患っている人が含まれる場合、どのように手続きを進めるべきかわからないという人は多いのではないでしょうか。

今回の記事では、認知症の人が相続人となる際の注意点や、成年後見制度の利用について詳しく解説します。

家族に認知症の人がいる場合の相続対策についても紹介するため、ぜひ参考にしてみてください。

認知症の人が相続人となる際の注意点

認知症の人が相続人となる際、相続手続きに通常の状況とは異なる配慮が必要です。
・遺産分割協議では相続人全員の合意が必要
・認知症の相続人は遺産分割協議に参加できない可能性が高い
・勝手に代筆すると遺産分割協議は無効となる

それぞれの注意点について、以下で一つずつ解説していきます。

遺産分割協議では相続人全員の合意が必要

遺産分割協議を成立させるためには、相続人全員の合意が必要不可欠です。

遺産分割協議とは、遺産の分割方法についての話し合いを指し、相続人全員の参加が必須となります。

遺言書があれば遺言書の記載に従って遺産を分割しますが、遺言書がない場合は遺産分割協議によって分割方法を決定するのが一般的です。

相続人の中に法的な判断能力がないとされる認知症の人がいる場合であっても、勝手に除外して遺産分割協議を進めることはできません。

認知症の相続人は遺産分割協議に参加できない可能性が高い

遺産分割協議には相続人全員の参加が必要ですが、判断能力が低下している認知症の人は、民法上の意思能力が無いとされる可能性が高いです。意思能力が無いとされる場合、遺産分割協議に参加しても自ら有効な意思表示ができません。

そのため遺言書が残されておらず、相続人に自己判断のできない認知症の人がいる場合、基本的に
成年後見制度を利用して遺産分割協議を行う必要があります。

そのため、認知症の人がいる場合は通常の相続手続きとは異なる対応が必要になる点は押さえておきましょう。

勝手に代筆すると遺産分割協議は無効となる

遺産分割協議において、遺産分割協議書などの署名をほかの相続人が勝手に代筆すると、協議自体が無効となります。

相続人に認知症の人がいるからといって、代理権をもたない家族が代わりに署名や捺印を行うのは避けましょう。

成年後見制度を利用すると認知症の人も遺産分割協議ができる

成年後見制度の利用によって、相続人に認知症で判断能力に不安がある人がいても遺産分割協議を行えるようになります。

成年後見制度とは、認知症などによって判断能力が不十分である人の契約手続きや財産管理を代理人がサポートする制度です。

しかし、成年後見制度を利用する際は、以下のポイントも押さえておく必要があります。
・成年後見人には家族以外が選任されるケースが多い
・成年後見人に対する報酬が発生する
・特別代理人の選任が必要になる場合もある
・ほかの相続人の希望通りに協議が進むとは限らない
・遺産分割協議後も成年後見は継続する

どのような点に注意すべきなのか、以下で詳しく見ていきましょう。

成年後見人には家族以外が選任されるもケースが多い

成年後見制度では、家族や親族以外の第三者が成年後見人に選任されるケースも多いです。

成年後見人を選任する権限は家庭裁判所にあるため、家族や親族を成年後見人にしてほしいと申し立てても、不適任と判断されれば認められません。

しかし、必ず第三者が選任されるわけではないため、家族を成年後見人にしたい場合は事前に立候補する、専門家に相談して準備を進めるなどの対策を検討しましょう。

成年後見人に対する報酬が発生する

成年後見人には弁護士や司法書士など外部の専門家が選任される可能性があり、その場合は報酬が発生します。

通常の後見事務に発生する基本報酬の目安は、月額2万円です。

ただし、管理する財産の額が多いケースでは管理が複雑になるため、財産額に応じて月額3万円~6万円程度が目安となります。

特別代理人の選任が必要になる場合もある

家族が成年後見人となる場合に、本人も成年後見人もいずれも相続人であった場合、本人と成年後見人の利益が相反することになります。

この場合に、後見人を監督する人が選任されていなければ、遺産分割協議を行う場合には、別途家庭裁判所に対して、特別代理人の選任申立てが必要になります。

ほかの相続人の希望通りに協議が進むとは限らない

成年後見制度を利用して実施する遺産分割協議は、必ずしもほかの相続人の希望通りに進むとは限りません。

成年後見人は、認知症を患った相続人の権利と利益の保護を優先します。

そのため、ほかの相続人が望む遺産分割方法が認知症の相続人にとって不利である場合、成年後見人が反対するケースもあるでしょう。

とくに民法で定められた法定相続分よりも少ない内容であれば、成年後見人を認めさせるのは難しいといえます。

遺産分割協議後も成年後見は継続する

成年後見制度を利用した場合、遺産分割協議が終了した後も成年後見人によるサポートは継続します。

そのため、その後の財産管理が柔軟に行えなくなったり、報酬を継続的に支払わなくてはならなかったりするデメリットも生じます。

認知症の相続人の財産を適切に管理できるようになるメリットもありますが、成年後見制度を利用する前には慎重な判断が必要です。

認知症の家族がいる場合に備えておくべき相続対策

家族の中に認知症を患っている人がいる場合に、事前にできる相続対策には以下のようなものがあります。
・遺言書を作成しておく
・家族信託を利用する
・生前贈与を検討する

将来の相続手続きをスムーズに進めるためにも、できるだけ早い段階で準備をしておくようにしましょう。

各相続対策について、以下で具体的に解説していきます。

遺言書を作成しておく

認知症の家族がいる場合にまず行っておくべきなのは、遺言書の作成です。

遺言書を準備しておけば、相続発生後に遺産分割協議を行わなくても、遺言書の内容に沿って相続を行えます。

被相続人となる人が認知症を発症して症状が進行すると、有効な遺言書が作成できなくなってしまうため、可能な限り早めに作成しておくのが望ましいです。

家族信託を利用する

認知症の家族がいる場合の相続対策として、家族信託の利用も有効です。

家族信託とは、保有している不動産や預貯金などの財産の管理・運用・処分を、信頼できる家族に任せられる仕組みです。

家族信託をしておくと、財産をもっている人が認知症になってしまったとしても、本人の判断能力に左右されずに財産管理を行えるようになります。

また承継者を事前に決められるため、相続が発生した際の遺産分割協議が不要になるのも家族信託のメリットです。

生前贈与を検討する

相続発生後の相続人の負担を軽減させるために、生前贈与を行っておくのも一つの手段です。

生前贈与とは、被相続人が亡くなる前に、ほかの人に無償で財産を与える行為です。

認知症によって判断能力がないと判断された場合の生前贈与は無効となってしまう可能性があるため、認知症が発症・進行する前に行っておく必要があります。

なお生前贈与の基礎控除は受贈者一人につき年間110万円となっており、基礎控除を超える金額を贈与すると贈与税が課されるので注意しましょう。

認知症の人の相続手続きで悩んだら早めに専門家に相談しよう

相続人に認知症の人がいる場合、通常の相続手続きよりも多くの問題を考慮する必要があります。

スムーズに相続を進めるためには、早めに対策を行っておくのが重要です。

しかし家族信託や成年後見制度などは仕組みが複雑なため、もし不安があれば弁護士などの専門家に相談するのをおすすめします。

相続問題に注力した専門家であれば、専門知識や経験にもとづいて最適な相続方法をアドバイスしてもらえるでしょう。

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