相続開始前3年以内の贈与は相続税の対象?対象外?2024年からの変更点は?
〇この記事を読むのに必要な時間は約8分40秒です。
将来の相続税対策として、生前贈与を活用したいと考える人は多いでしょう。
しかし、贈与後3年以内に贈与者が亡くなった場合、贈与された財産は相続財産に加算され、相続税が課税されてしまう可能性があります。
今回の記事では、相続開始前3年以内の生前贈与加算について、詳しく解説します。
相続財産へ加算されるケースと加算されないケースも解説するため、ぜひ参考にしてみてください。
目次
相続開始前3年以内の生前贈与加算とは
生前贈与加算とは、相続が発生する前の3年以内に行われた贈与が、相続財産に加算される仕組みです。
・年間110万円以下の暦年課税贈与は原則として課税されない
・相続開始前3年以内の暦年課税贈与は相続税の対象となる
・2024年以降は生前贈与加算が7年に延長される
相続税の対策や計算において、生前贈与がどのように扱われるかを理解するのは重要です。
以下では、生前贈与加算の具体的な内容について解説していきます。
年間110万円以下の暦年課税贈与は原則として課税されない
暦年課税贈与では、年間110万円以下の贈与であれば、贈与税は課税されません。
暦年課税とは贈与の課税方法の一つで、1月1日から12月31日までの1年間で贈与された財産の合計額をもとに、贈与税が計算されます。
一人あたり年間110万円の基礎控除額が設けられており、1月1日から12月31日までに受けた贈与額の合計が110万円以下であれば課税対象外です。
生前贈与が成立すれば、対象の財産の所有権は贈与者から受贈者に移行しているため、後に贈与者が亡くなった場合でも、原則として受贈者の相続財産には含まれません。
非課税で毎年110万円の財産を移動できることから、暦年課税による生前贈与は相続税対策に有効とされています。
相続開始前3年以内の暦年課税贈与は相続税の対象となる
相続開始前3年以内に行われた暦年課税贈与については、贈与自体がなかったものとみなされ、相続財産に加算されます。
この仕組みを「生前贈与加算」と呼び、相続財産に加算された贈与額は相続税の課税対象です。
たとえば、2023年12月10日に贈与者が亡くなった場合、死亡日から3年間さかのぼり、2020年12月10日から死亡日までの贈与が生前贈与加算の対象となります。
3年以内の贈与であれば、贈与税の有無にかかわらず加算されるため、基礎控除額の年間110万円以下の贈与であっても相続財産に加算されます。
2024年以降は生前贈与加算が7年に延長された
2023年までは生前贈与加算の対象は相続開始前の3年間でしたが、税制改正によって2024年以降は7年間に延長されました。
それによって、2024年1月1日以降は、相続開始前7年以内に贈与された財産が相続税の対象となります。
ただし、相続開始から4年~7年以内に受けた生前贈与に関しては、100万円を控除した額が生前贈与加算の対象となります。
たとえば、2024年以降に毎年100万円の生前贈与を続けていた場合、相続が発生した際の贈与額の扱いは以下のとおりです。
・3年以内に贈与された300万円:そのまま相続財産に加算される
・4年前~7年以内に贈与された400万円:100万円を控除した300万円が相続財産に加算される
相続開始前3年以内の加算の対象となる人・ならない人
相続開始前3年以内に行われた贈与であっても、そのすべてが生前贈与加算の対象になるとは限りません。
・生前贈与加算の対象となる人
・生前贈与加算の対象外となる人
生前贈与加算の対象となるかどうかは、受贈者の状況によって異なります。
加算対象となる人・ならない人について、次で具体的に見ていきましょう。
生前贈与加算の対象となる人
生前贈与加算の対象となる人は、以下のとおりです。
・相続や遺贈によって財産を取得した人
・みなし相続財産を受け取った人
・相続時精算課税制度の適用者
生前贈与加算の対象可否は、基本的に相続や遺贈によって実際に財産を取得したかどうかで判断されます。
生命保険金や死亡退職金などは「みなし相続財産」とされ、これらを受け取った人も生前贈与加算の対象です。
また、贈与には「相続時精算課税制度」という課税方法もあり、相続時精算課税による贈与は何年前に行われたかにかかわらず、すべて生前贈与加算の対象となります。
生前贈与加算の対象外となる人
生前贈与加算の対象とならないのは、以下に該当する人です。
・相続放棄した人
・相続欠落、もしくは相続廃除となった人
前述したとおり、生前贈与加算の対象可否は実際に財産を取得したかどうかで判断されるため、相続や遺贈で財産を取得していない人は加算対象になりません。
自ら相続放棄を選択した人のほか、相続秩序を侵害する行為などを行って「相続欠落」「相続廃除」となった人も生前贈与加算の対象外です。
相続開始前3年以内でも加算の対象とならない贈与
相続開始前3年以内の贈与であっても、次のような特例制度を適用した部分については、生前贈与加算の対象にはなりません。
・配偶者控除の対象となる贈与
・教育資金の一括贈与
・結婚や子育て資金の一括贈与
・住宅取得等資金の贈与
それぞれどのような特例制度なのか、以下で詳しく解説していきます。
なおこれらの特例制度には適用要件が細かく定められているため、利用する際は必ず詳細を確認するようにしてください。
配偶者控除の対象となる贈与
配偶者控除では、以下3つの要件を満たすと、基礎控除110万円のほかに最大2,000万円までの控除が適用されます。
・婚姻期間が20年経過後の夫婦間での贈与
・贈与する財産が居住用不動産、または居住用不動産を取得するための金銭
・贈与を受けた年の翌年3月15日までに、居住用不動産に受贈者が住んでおり、その後も引き続き住む見込みがある
教育資金の一括贈与
教育資金の一括贈与とは、金融機関の教育資金管理契約にもとづいた一括贈与を受けた場合に、最大1,500万円まで贈与税が非課税となる特例です。
2013年4月1日から2026年3月31日までの期間で、父母や祖父母などの直系尊属から30歳未満の子ども・孫などに対して行われた贈与が対象となります。
この特例を利用する際は、金融機関に教育資金口座を開設した上で、金融機関を通じて税務署に申告書を提出する必要があります。
結婚・子育て資金の一括贈与
結婚・子育て資金の一括贈与とは、金融機関の結婚・子育て資金管理契約にもとづいた一括贈与を受けた場合に、最大1,000万円まで贈与税が非課税となる特例です。
2015年4月1日から2025年3月31日までの期間で、直系尊属から18歳以上50歳未満の子ども・孫などに対して行われた贈与が対象となります。
結婚・子育て資金管理契約が終了した場合や、契約期間中に贈与者が死亡した場合は、相続税または贈与税がかかる可能性があるため注意が必要です。
住宅取得等資金の贈与
直系尊属から住宅取得等に関する資金の贈与を受けた場合も、一定の条件を満たせば最大1,000万円まで贈与税が非課税となります。
対象となるのは、2022年1月1日から2023年12月31日までの間に受けた贈与です。
受贈者の要件と対象となる住宅用の家屋の要件がそれぞれ設けられているため、適用させたい場合には事前にしっかりと確認しておく必要があります。
生前贈与による相続税対策は専門家に相談して計画的に進めよう
生前贈与は相続税対策の一つとして有効ですが、相続開始前3年以内~7年以内の贈与は課税対象となってしまう可能性があるため注意が必要です。
相続税対策や相続手続きに不安がある場合は、税理士などの専門家に相談するのをおすすめします。
専門家のアドバイスを受けることで、財産状況や税制の変更などを考慮した、適切な計画を立てられるでしょう。
弁護士法人ふくい総合法律事務所
最新記事 by 弁護士法人ふくい総合法律事務所 (全て見る)
- 11月17日(日)の休日相続・遺言無料相談会の受付は終了しました。 - 11月 15, 2024
- 特別受益とは?計算方法や該当ケースを解説 - 11月 5, 2024
- 相続預金の引き出し方|必要な書類は? - 10月 25, 2024
弁護士コラムの最新記事
- 特別受益とは?計算方法や該当ケースを解説
- 相続預金の引き出し方|必要な書類は?
- 財産目録とは?記載内容と作成時のポイント
- 相続について無料で相談できる主な機関
- 相続の限定承認とは?内容や手続きを分かりやすく解説
- 相続放棄の基本的な流れとメリット・デメリット
- 相続税で気を付けておきたいペナルティ
- 遺産相続トラブル事例と防ぐポイント
- 相続の無料相談はどこにすべき?6つの相談先と特徴
- 相続欠格とは?相続権を失う5つの欠格事由
- 配偶者の法定相続分について|配偶者控除とは?
- 相続における遺言書の作成方法|どのような効果がある?
- 相続の遺産調停の基本的な流れポイント
- 相続の遺産分割協議書とは?作成手順は?
- 相続手続きはどこに依頼できる?選び方のポイントは?
- 相続は弁護士に相談すべき?依頼するメリット・デメリット
- 相続による土地の名義変更の流れ
- 相続財産に借金がある場合はどうする?借金の調査方法も解説
- 相続登記の登録免許税とは?計算方法や納付方法について解説
- 相続税における土地評価方法を解説|基本の流れや算定方式
- 相続税の配偶者控除とは?計算方法や手続きについて
- 相続手続きに必要な戸籍謄本の手続き・種類・取り方
- 相続の順位と遺産分割の割合
- 同居は相続に有利になる?寄与分の主張と認められるための要件
- 相続財産が少ない場合のポイント
- 相続の財産調査の対象は?自分で行える?
- 相続が少ない場合は手続きが必要?
- 相続手続きは自分でできる?自分で進める流れとデメリット
- 相続手続にかかる弁護士費用はいくら?
- 相続は税理士?弁護士?どの専門家に相談すべき?
- 相続額が少ない場合の申告は?気を付けるべき注意点
- 相続の遺産分割協議書とは?作成の流れや書き方
- 相続手続きの期限一覧|手続きごとの期限
- 相続人が認知症の場合の対応|成年後見制度のポイント
- 遺産相続手続の時効は?手続き別の時効
- 相続発生時に確定申告は必要?行わなければいけないケースは?
- 不動産相続の流れと種類
- 相続と贈与の違い
- 相続の基礎控除とは?計算方法や特例についても解説
- 遺産相続の遺留分とは?遺留分の適用範囲
- 相続で揉めるケースと原因、トラブルを回避するためのポイント
- 相続発生時のやることリスト
- 相続の相談先一覧と選び方
- 相続の暦年課税とは?メリットや相続時精算課税との違い
- へそくりに相続税はかかる?相続税申告の注意点
- 遺産分割調停の流れ