相続のプロセスと手続きについて解説
〇この記事を読むのに必要な時間は約8分34秒です。
相続は、ある日突然やってくる人生の手続きの一つです。
親族が亡くなった悲しみの中で法律や税金にかかわる複雑な手続きを進めなければならず、不安を感じる人も多いでしょう。
とくに、相続のプロセスでは専門的な知識を求められる場面も多いため、事前に流れを把握しておくことが重要となります。
今回の記事では、相続の基本的な前提知識やプロセスについて詳しく解説します。
これから相続に向き合う人や将来に備えて知識を身につけておきたい人は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
相続のプロセスを理解する上で重要な前提知識
相続手続きをスムーズに進めるためには、まず基本的な知識を押さえる必要があります。
・相続とは?
・相続財産(遺産)とは?
・遺言とは?
これらの前提知識があれば、実際の相続の場面でも冷静に判断でき、トラブルを回避しやすくなるでしょう。
それぞれの用語について、以下で解説していきます。
相続とは?
相続とは、亡くなった人(被相続人)の財産や権利・義務を、法律上の決まりに従って相続人が引き継ぐ制度です。
配偶者や子どもなど、被相続人と特定の関係にある親族が、民法で定められた相続順位にもとづいて相続人となります。
相続は、被相続人が死亡した時点で自動的に発生する点が特徴です。
ただし、相続の開始があったことを知ったときから3ヵ月以内に家庭裁判所で相続放棄の手続きをとることにより、プラスの財産もマイナスの財産も引き継がないということができます。
相続財産(遺産)とは?
相続財産とは、被相続人が亡くなった時点で所有していた財産であり、「遺産」ともいわれます。
相続財産には預金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金や未払い金といったマイナスの財産も含まれる点に注意が必要です。
相続手続きではこれらの財産を正確に調査・把握し、誰がどれだけ受け取るかを決定する必要があります。
遺言とは?
遺言とは、相続財産の分け方などについて、被相続人が意思表示をする手段です。
遺言書には大きく分けて「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つの形式があり、作成方法や効力が異なります。
有効な遺言書が作成されていれば、原則としてその内容に従って相続が行われます。
遺産分割における相続人間のトラブルを防ぐ上でも、非常に重要な役割をもつ書面です。
基本的な相続手続きのプロセス
相続では、さまざまな手続きを行う必要があります。
基本的な相続手続きの流れは、以下のとおりです。
・遺言調査・検認
・相続人の確定
・財産調査
・相続放棄や限定承認の判断
・遺産分割協議
・相続税の申告・納税
・相続財産の名義変更
中には期限が定められた手続きもあるため、一定の順序に従って進めることが重要です。
相続発生から相続税申告・名義変更に至るまでの主要なプロセスを、以下で一つずつ確認していきましょう。
遺言調査・検認
相続手続きにあたって、まず行うべきなのは遺言書の調査です。
遺言書が残されている場合、原則としてその内容が優先されるため、相続人間での協議が不要になる可能性があります。
自宅の金庫や貸金庫、公証役場などに保管されているケースが多いため、身近な場所から確認しましょう。
「自筆証書遺言」もしくは「秘密証書遺言」が見つかった場合には、家庭裁判所で検認の申し立てが必要です。
公証役場で保管されている「公正証書遺言」に関しては、検認の必要がないためすぐに手続きを進められます。
相続人の確定
遺言書の有無にかかわらず行うべき基本的な手続きの一つが、相続人の確定です。
相続人を確定するためには、被相続人の出生から死亡までの戸籍をたどり、誰が相続人となるかを確認する必要があります。
戸籍は本籍地変更・婚姻・法律改正などのタイミングで新しく作られるため、過去にさかのぼってすべての戸籍謄本を集めましょう。
戸籍謄本は、原則として最寄りの市区町村で取得できます。
財産調査
相続人の調査と同時に、相続財産の調査も行いましょう。
これは、被相続人がどのような財産を所有していたかを把握し、相続の対象となる資産と負債の全体像を明らかにするプロセスです。
具体的には、預貯金・不動産・有価証券・車両・骨董品などの資産が対象となります。
また、クレジットカードの未払い残高・借入金・債務・未払いの税金などのマイナス財産も、正確に調査しなければなりません。
財産の種類が多く調査が進まない場合や不動産が含まれている場合は、弁護士や司法書士などの専門家への依頼も検討しましょう。
相続放棄や限定承認の判断
相続ではそのまま財産を引き継ぐ「単純承認」以外にも、「相続放棄」や「限定承認」といった選択肢があります。
相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がず放棄する方法です。
一方で限定承認は、プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を引き継ぐ方法です。
被相続人の財産に借金などのマイナスの財産が含まれている場合は、相続放棄や限定承認が有効な選択となる可能性があります。
どちらの手続きも相続の開始を知った日から3ヶ月以内という期限があるため、必要に応じて検討しましょう。
3ヶ月の期間を過ぎると、原則として相続放棄や限定承認はできなくなり、単純承認したものとみなされます。
遺産分割協議
遺言書が残されておらず、相続人が複数いる場合は、遺産分割協議を行います。
遺産分割協議とは、相続人全員で相続財産をどのように分けるかを話し合うプロセスです。
誰がどの財産をどのくらい引き継ぐのかを決定し、合意に至ったら、協議の結果をまとめた「遺産分割協議書」を作成します。
遺産分割協議書の作成は任意ですが、誤解や勘違いによるトラブルを防ぐためにも作成しておくことが望ましいです。
なお、相続人同士でもめていたりトラブルが生じていたりする状況であれば、弁護士への相談を検討しましょう。
相続税の申告・納税
相続財産の総額が基礎控除額を上回っている場合は、相続税の申告と納税が必要です。
相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内と定められています。
この期限を過ぎると、加算税や延滞税といったペナルティの対象となる可能性があるため注意が必要です。
相続税には基礎控除があり、「3,000万円+(法定相続人の数×600万円)」の金額までは課税されません。
相続税に関する不明点や疑問点があれば、税理士に相談することをおすすめします。
相続財産の名義変更
遺産分割が成立したら、相続した財産の名義変更を行います。
名義変更は相続財産の種類によって手続きが異なるため、漏れがないようリスト化して確認しながら進めましょう。
たとえば、土地や建物などの不動産を相続した場合は、「相続登記」の申請が必要です。
不動産の相続は専門的な知識が求められるケースも多いため、不安があれば早めに司法書士に相談しましょう。
預貯金の名義変更や解約に関しては、利用している金融機関によって手続きが若干異なります。
金融機関の窓口に出向き、案内に従って手続きを進めていくのが確実です。
相続のプロセスで悩んだときは専門家に相談しよう
相続には感情的な問題もかかわるため、一人で冷静に対処するのは難しいケースも多いでしょう。
しかし、相続手続きで判断のタイミングを誤ると、予期せぬ負担やトラブルを招く可能性もあります。
こうした不安や疑問を解消する上で力になってくれるのが、弁護士・司法書士・税理士といった専門家です。
とくに、財産の内容が複雑だったり、相続人の間で意見が分かれたりしている場合には、専門家の介入が有効となります。
相続のプロセスで不安を感じたときは、一度専門家への相談を検討してみてください。

弁護士法人ふくい総合法律事務所

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