遺産相続手続の時効は?手続き別の時効

 

この記事を読むのに必要な時間は約8分23秒です。

遺産相続にはさまざまな手続きがあり、時効や期限が設けられているものも多くあります。

期間をすぎるとデメリットが生じてしまう可能性もあるため、事前に手続きを理解しておくことが大切です。

そこで今回の記事では、相続に関連する時効の基本と、時効が適用される手続きについて詳しく解説していきます。

遺産相続手続きには時効がある

遺産相続においては、さまざまな手続きに時効や期限が設定されています。

遺産を相続する権利自体に対する時効はありません。

しかし、遺産相続に関連するそのほかの手続きには時効があるため、放置していると遺産を受け取れなくなってしまう可能性もあります。

相続に関係する時効を理解しておくと、何をいつまでに行うべきかが明確になり、適切に権利を行使できるでしょう。

そもそも時効とは?

時効とは、法律上の権利が一定期間行使されない場合に、その権利を取得できたり、権利が消滅したりする制度です。

遺産相続でとくに注意すべきなのは、民法上の「取得時効」・「消滅時効」と、定められた「期限」です。

取得時効 平穏にかつ公然と他人の物や権利を一定期間占有などした者は、その権利を取得できる時効制度
消滅時効 一定期間権利が行使されない場合に、その権利が消滅する時効制度
期限 あらかじめ決められた一定の期間

遺産相続で損をしないためには、各手続きの時効や期限への理解が重要となります。

遺産相続に関する時効の年数一覧

遺産相続に関する時効は、主に以下の7つが定められています。
・相続税申告の時効|5年
・相続放棄の時効|3ヶ月
・遺留分侵害額請求の時効|1年
・相続回復請求権の時効|5年
・生前贈与の贈与税申告の時効|6年
・預金債権の消滅時効|5年
・相続登記の時効|なし

各手続きの時効について、次で具体的に確認していきましょう。

相続税申告の時効|5年

相続税の申告・納税義務には時効があり、申告期限(被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月)から5年経過すると時効が成立します。

申告漏れがあったり、そもそも申告を行っていなかったりした場合でも、時効が成立した場合は相続税を支払う必要はありません。

ただし、相続税の申告・納税義務を知っていながら怠った場合など、悪意があると認められた際は時効の期間が7年に延長されます。

税務署に指摘された際に課される延滞税は期間が長引くほど高額になるため、相続税が課税されると気づいた時点で、すぐに申告して納税するようにしましょう。

相続放棄の時効|3ヶ月

相続放棄が行える期間(熟慮期間)は、相続開始を知ったときから3ヶ月以内です。

遺産には預貯金や不動産などプラスの財産だけでなく、借金や未払金などマイナスの財産も含まれます。

マイナスの財産が多い場合や、相続トラブルを避けたい場合などに、相続人は自分の判断で遺産の相続権を放棄する選択が可能です。

相続放棄を希望する場合には、3ヶ月以内に管轄の家庭裁判所で手続きを行いましょう。

遺留分侵害額請求の時効|1年

遺留分侵害額請求の期限は、相続開始と遺留分の侵害を知った日から1年です。

遺留分とは相続人に法律で保障された、最低限の相続割合を指します。

不当な遺言や贈与によって遺留分を侵害された場合、遺留分侵害額請求によって遺留分の請求できます。

遺留分侵害の事実を知った際は、時効が成立しないよう早めに請求手続きを進めましょう。

なお、相続開始から10年間が経過すると、遺留分の侵害を知らなかったとしても遺留分侵害額請求の権利は消滅します。

相続回復請求権の時効|5年

相続回復請求権の時効は、相続権を侵害された事実を知ってから5年です。

相続回復請求権とは、相続人ではない者が不当に遺産を占有している場合などに、本来の相続人が遺産の返還を請求する権利を指します。

なお、相続権を侵害された事実を知らなかった場合であっても、相続開始から20年が経過すると相続回復請求権は消滅します。

生前贈与の贈与税申告の時効|6年

生前に行われた贈与に対する贈与税申告には、原則6年の時効があります。

時効の起算日は、贈与があった年の申告期限の翌日である3月16日です。

本来は年間110万円を超える贈与を受けた場合に贈与税の申告・納税が必要となりますが、時効が成立すると贈与税の支払い義務が消滅します。

ただし、故意に申告を怠ったり虚偽の申告をしたりした場合、時効は7年に延長されます。

贈与税の無申告は厳しいペナルティが課される可能性もあるため、申告を忘れないようにしましょう。

預金債権の消滅時効|5年

預金債権の消滅時効の期間は、5年です。

預金債権とは、預金者が銀行などの金融機関に対して預けているお金を指します。

実務上では、時効を過ぎた場合であっても、取引の事実が証明できれば払い戻しに応じてくれる金融機関は多いです。

しかし判断は金融機関次第であるため、預金は5年経過する前に引き出しておくのが確実でしょう。

相続登記の時効|なし

現在は、相続登記に時効は設けられていません。

しかし2024年4月1日から相続登記が義務化されるため、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記申請をする必要があります。

なお遺産分割協議で不動産を取得したケースであれば、遺産分割協議が成立した日から3年以内となります。

正当な理由なく申請しなかった場合、10万円以下の過料が課される可能性があるため注意が必要です。

遺産分割請求権に時効はあるか?

遺産分割請求権に関しては、時効はありません。

ただし、遺産分割を長期間行わないとデメリットが生じる可能性はあります。
・遺産分割を行わないデメリット
・遺産分割協議のやり直しはできる?

遺産分割を行わないデメリットと遺産分割協議のやり直しについて、以下で詳しく見ていきましょう。

遺産分割を行わないデメリット

遺産分割を行わないままでいるデメリットは、以下のとおりです。
・遺産を処分する際には相続人全員の承諾が必要
・相続税の特例が一部適用されない
・世代が進むと相続人が増え、遺産管理が複雑になる

遺産分割をするまでは、遺産は相続人全員で共有する状態になります。

そのため相続財産に関する税金や費用の負担も不明確になり、相続人間のトラブルの原因となるケースもあるでしょう。

不要なトラブルを避けるためにも、相続開始後は早めに遺産分割協議を進めるのが望ましいです。

遺産分割協議のやり直しはできる

遺産分割協議には時効がないため、原則として協議のやり直しはいつでも可能です。

ただし、一度成立した遺産分割協議を変更するには、すべての相続人の同意が必要となります。

なお以下のような状況で同意した遺産分割協議書については、取り消しの主張が可能です。
・重要な勘違いをして同意した
・脅しによって同意した
・騙されて同意した

取消権には追認できるときから5年、または遺産分割から20年の時効があるため、取消事由が判明した際は速やかな対応が重要となります。

遺産相続の時効や期限に注意して余裕をもって手続きを進めよう

遺産相続に関する手続きは複雑であり、手続きごとに時効や期限が定められている場合があります。

遺産を受け取れなくなるといった事態にならないよう、各手続きの期限をしっかり把握し、余裕をもって進めましょう。

なお相続手続きで悩んだら、専門家に相談しアドバイスやサポートを得るのも一つの手段です。

第三者である専門家を介すことで、遺産相続の複雑な手続きを任せられるほか、相続人間でのトラブルを回避できる可能性も高くなります。

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