相続放棄の基本的な流れとメリット・デメリット
〇この記事を読むのに必要な時間は約8分28秒です。
相続は、亡くなった人の財産を引き継ぐ重要な手続きです。
しかし、相続人は必ず相続を受け入れなければならないわけではありません。
権利義務を一切引き継がない選択を「相続放棄」といいます。
そもそも相続放棄とはなにか、どのように手続きすればいいのかわからないという人も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、相続放棄の概要とメリット・デメリット、手続きの流れなどを詳しく解説します。
相続放棄以外の選択肢や、相続放棄できないケースについても解説するため、ぜひ参考にしてみてください。
目次
相続が発生した際の選択肢
相続が発生した際、相続人には3つの選択肢があります。
・単純承認|すべてを相続する
・限定承認|プラスの範囲で相続する
・相続放棄|一切相続せず放棄する
どの相続方法を選ぶかによって相続できる内容が変わるため、状況に応じて選択しましょう。
それぞれの相続方法の概要について、以下で解説していきます。
単純承認|すべてを相続する
単純承認とは、相続人が被相続人のすべての財産を引き継ぐ方法です。
相続財産には預貯金や不動産・株式などのプラスの財産だけでなく、借金やローンなどマイナスの財産も含まれます。
単純承認をすると、被相続人のマイナス財産も引き継ぐ必要がある点に注意が必要です。
相続方法を選択できる期間は、相続が開始し自分が相続人であることを知ってから3ヶ月間です。
限定承認や相続放棄の手続きを行わないまま3ヶ月が経過した場合、自動的に単純承認したとみなされます。
限定承認|プラスの範囲で相続する
限定承認とは、プラスとなる財産の範囲でのみマイナスの財産を相続する方法です。
マイナスの財産がプラスの財産を上回ってしまう事態を避けられるのがメリットです。
限定承認を選択するには、相続が開始し自分が相続人であることを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。
申述は、相続人全員で行わなければならない点に注意が必要です。
相続放棄|一切相続せず放棄する
相続放棄とは、相続人が被相続人の財産を一切相続せず放棄する方法です。
被相続人の債務を引き継がなくて済む点や、相続手続きを簡略化できる点がメリットです。
ただし、相続放棄を選択するとプラスの財産も一切相続できなくなるため注意しましょう。
相続放棄を行うには、相続が開始し自分が相続人であることを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります。
限定承認とは異なり、相続人が単独で手続きを行えます。
相続放棄を選ぶメリット
相続放棄を選択すると、以下のようなメリットがあります。
・借金などのマイナスの財産を引き継がなくて済む
・相続手続きにともなう時間や労力を削減できる
・相続に関するトラブルを未然に防げる
被相続人の借金返済の義務から解放されるのは、相続放棄の大きな利点です。
相続放棄を行えば、遺産分割協議や相続税申告、名義変更などの手間のかかる相続手続きも必要ありません。
また、相続放棄を選択することで、相続財産をめぐる親族間のトラブルに巻き込まれるリスクも回避できるでしょう。
相続放棄を選ぶデメリット
相続放棄は借金などのマイナスの財産から逃れられる一方で、いくつかのデメリットも存在します。
・プラスの財産も一切相続できなくなる
・自分の次の相続順位の人に相続権が移る可能性がある
・一度行うと原則として取り消しができない
借金などのマイナスの財産だけでなく、プラスの財産も一切相続できなくなるのはデメリットといえます。
また、相続人となる人が複数人いる場合、相続放棄した自分の代わりにほかの相続人に相続権が移る場合があります。
相続放棄によって、意図せず親族に迷惑をかけてしまう可能性もあるため注意しましょう。
一度相続放棄をした後は原則として取り消しできないため、慎重な判断が必要です。
相続放棄の手続きの前提事項と流れ
相続放棄をスムーズに行うためには、いくつかの前提事項と手続きの流れを理解しておく必要があります。
・申述期限と申述先
・必要な書類と費用
・相続放棄の手続きの流れ
各項目について、以下で具体的に確認していきましょう。
申述期限と申述先
相続放棄の申述期限は、相続が開始し、自身が相続人であると知ったときから3ヶ月以内です。
この期間を熟慮期間といい、相続人は熟慮期間内に相続方法を選択しなければなりません。
熟慮期間を過ぎると、原則として相続放棄ができなくなります。
相続放棄の申述先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
相続人の住所地を管轄する家庭裁判所ではないため、注意しましょう。
必要な書類と費用
相続放棄の手続きには、以下の書類が必要となります。
・相続放棄の申述書
・被相続人の住民票除票または戸籍附票
・申述人(相続放棄する人)の戸籍謄本
・被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本(申述人が被相続人の配偶者または子どもの場合)
・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本(申述人が被相続人の配偶者・子ども以外の場合)
相続人となるはずの人がすでに死亡している場合、対象の相続人の戸籍謄本(死亡の記載があるもの)も提出が必要です。
また、相続放棄の費用として、800円分の収入印紙と連絡用の郵便切手も必要となります。
取り寄せる戸籍謄本の種類や郵便切手の金額を確認したい場合は、申述先の家庭裁判所に問い合わせてみてください。
相続放棄の手続きの流れ
相続放棄の手続きは、一般的に以下のような流れで進めていきます。
- 被相続人の財産調査
- 相続放棄に必要な書類の準備
- 家庭裁判所に申述
- 相続放棄申述受理通知書が届いたら手続き完了
まずは相続放棄の判断をするために、被相続人の財産調査からはじめましょう。
相続放棄の申述書や戸籍謄本などの必要書類が揃ったら、家庭裁判所へ申述します。
申述は郵送でも可能ですが、記入ミスや不備に不安がある場合は窓口の方がその場で指摘してもらえるため安心です。
相続放棄申述受理証明書が必要な場合は、相続放棄手続き完了後に家庭裁判所へ交付申請してください。
相続放棄の手続きができなくなるケース
相続放棄はいつでも自由に行えるわけではなく、手続きができなくなってしまうケースもあります。
・相続放棄を選択できる期間を過ぎた場合
・単純承認とみなされた場合
相続放棄を行うには、相続が開始し自身が相続人であると知ったときから3ヶ月の熟慮期間内に手続きしなければなりません。
熟慮期間を過ぎると、自動的に単純承認したとみなされるため注意が必要です。
また、熟慮期間が経過する以外でも、以下のような特定の行動をするとその時点で単純承認とみなされます。
・相続財産を処分した場合
・相続財産を隠したり消費したりした場合
相続放棄や限定承認を検討している場合は、被相続人の財産に手をつけないよう心がけましょう。
相続放棄すべきか悩んだら専門家に相談しよう
相続において相続放棄は重要な決断であり、一度行うと原則として取り消しができません。
被相続人にマイナスの財産がどれくらいあるのか、残したい財産はあるのかなど、慎重に検討する必要があります。
もし財産状況の把握が難しい場合や、相続放棄の判断に不安がある場合は、弁護士や税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。
相続問題に関する深い知識をもつ専門家は、相談者の個別の状況を考慮し、最適な選択肢を提案してくれます。
手間のかかる書類集めや手続きの代行も依頼できるため、必要に応じて専門家のサポートを受けましょう。
弁護士法人ふくい総合法律事務所
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