相続税の基礎控除について。計算式と注意点
〇この記事を読むのに必要な時間は約8分51秒です。
相続が発生したとき、気になるのが相続税の存在です。
相続税には「基礎控除」があるため、亡くなった人が残した財産の総額によっては課税されないケースもあります。
しかし、基礎控除の考え方や計算方法がわからず悩んでいる人も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、相続税の基礎控除の計算方法や注意点、さらに基礎控除以外に適用できる控除制度について解説します。
相続税対策を考えている人は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
相続税の基礎控除とは?
相続税の基礎控除とは、一定額までの相続財産には相続税がかからないという制度です。
相続税はすべての相続のケースで課税されるわけではなく、財産の規模によって課税の有無が決まります。
具体的には、相続財産の合計額が「基礎控除額」以下であれば、相続税は発生しません。
相続税を支払う必要があるかどうかを判断する際に、最初の基準となるのが基礎控除です。
まずは、この基礎控除の計算式を理解することが相続税対策の第一歩となります。
相続税の基礎控除額の計算式
相続税の基礎控除額は、以下の計算式で求められます。
相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数 |
法定相続人の人数が多いほど、基礎控除額も増える仕組みです。
たとえば、法定相続人が配偶者と子ども2人(合計3人)の場合、基礎控除額の計算式は以下のようになります。
【例】3,000万円+600万円×3=4,800万円 |
相続財産の総額が基礎控除額を超えなければ、相続税の申告と納税は不要です。
相続税の基礎控除額計算で重要となる「法定相続人」とは?
法定相続人とは、民法で定められた「相続の権利をもつ人」です。
法定相続人の数が多いほど相続税の基礎控除額が増額するため、法定相続人を正確に把握することは非常に重要です。
民法における法定相続人の順位は、被相続人(亡くなった人)との関係性によって以下のように定められています。
第1順位 | 子ども(すでに死亡している場合は孫) |
第2順位 | 直系尊属(父母・祖父母) |
第3順位 | 兄弟姉妹(すでに死亡している場合は甥姪) |
配偶者は常に相続人となるため、上記順位の相続人とともに遺産を相続します。
法定相続人を調べるには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せて、家族関係を確認するのが一般的です。
婚姻歴や認知された子ども・養子の有無などによって相続関係が複雑になる可能性もあるため、慎重に調査しましょう。
相続税の基礎控除を計算する際の注意点
相続税の基礎控除額を正しく算出するためには、民法や税法上の細かなルールを理解しておく必要があります。
基礎控除額の計算時に間違えやすい主なポイントは、次の3つです。
・代襲相続が発生した場合の計算方法
・養子縁組の人数には上限がある
・相続放棄した相続人がいても基礎控除額に影響はない
各注意点について、以下で詳しく見ていきましょう。
代襲相続が発生した場合の計算方法
代襲相続が発生すると、法定相続人の数が変わる可能性があるため注意が必要です。
代襲相続とは、相続人となるはずの人が相続開始時点ですでに死亡している場合に、その子どもが相続権を引き継ぐ制度です。
たとえば、被相続人の子どもがすでに亡くなっていた場合、その子どもである孫が代襲相続人となります。
亡くなった子どもに子ども(孫)が2人いれば、その2人が同時に相続人となるため、基礎控除額は2人分で計算が可能です。
代襲相続が発生するのは、相続人となるはずの「子ども」もしくは「兄弟姉妹」がすでに亡くなっている場合に限られます。
養子縁組の人数には上限がある
基礎控除額を計算する際、法定相続人としてカウントされる養子の人数には上限があります。
被相続人が養子縁組をしていた場合、養子も被相続人の子どもとして第1順位の法定相続人になります。
ただし、基礎控除額の計算に含められる養子の人数は、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです。
養子が複数人いたとしても、基礎控除の計算にすべての人数を含められるわけではない点に注意しましょう。
相続税対策として養子縁組を検討する際は、専門家に相談してアドバイスを受けるのが得策です。
相続放棄した相続人がいても基礎控除額に影響はない
相続放棄は、基礎控除額の計算には影響しません。
相続放棄とは、被相続人の財産に関する権利・義務の一切を相続せずに放棄する手続きです。
しかし、基礎控除の計算では、相続放棄した相続人も法定相続人の1人としてカウントされます。
相続人の中に相続放棄した人がいるからといって基礎控除額が増減することはないため、そのまま計算するようにしましょう。
基礎控除以外で相続税に適用できる控除
相続税には基礎控除のほかにも、条件を満たせば税負担を軽減できる控除制度があります。
代表的な控除制度は、次の4つです。
・配偶者控除
・未成年者控除
・障害者控除
・小規模宅地等の特例
これらは基礎控除とは別に適用されるため、相続税額そのものが大きく引き下がる可能性があります。
以下では、それぞれの控除制度の概要を確認していきましょう。
配偶者控除
配偶者控除は、被相続人の配偶者の生活保障の観点から設けられた控除制度です。
配偶者が相続する場合、「1億6,000万円」または「法定相続分まで」の金額について、相続税が非課税になります。
たとえば、配偶者が相続した財産が1億6,000万円以上だとしても、法定相続分を超えていなければ相続税は発生しません。
配偶者控除を適用する際は、相続税がゼロ円になるとしても相続税申告が必要です。
申告を怠ると控除を受けられないため、「相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」の期限内に手続きを行いましょう。
未成年者控除
未成年(18歳未満)の相続人がいる場合、対象の相続人が18歳になるまでの年数に応じて控除が受けられます。
控除額の計算式は、「(18歳−相続開始時点の年齢)×10万円」です。
たとえば、15歳が相続する場合、「(18歳−15歳)×10万円=30万円」の控除が適用され、相続税額が減額されます。
なお、相続開始時点の年齢に端数月がある場合は、切り捨てて計算します。
障害者控除
相続人に85歳未満の障害者がいる場合、85歳になるまでの年数分の相続税が控除されます。
一般障害者の控除額の計算式は、「(85歳-相続開始時点の年齢)×10万円」です。
特別障害者の場合は、1年あたりの控除額が20万円となります。
たとえば、60歳の特別障害者が相続する場合、「(85歳−60歳)×20万円=500万円」の控除が受けられます。
障害者控除を適用させる際には、障害者手帳などの証明書が必要となるため、提出書類は事前に確認しておきましょう。
小規模宅地等の特例
土地や建物などの不動産を相続した場合、評価額に応じた相続税が課税されます。
評価額とは、対象の不動産の価格や税額を計算する際の基準となる価格です。
不動産が小規模宅地等の特例の要件を満たしていれば、評価額を最大80%減額できます。
ただし、適用には細かな要件が定められており、相続税申告手続きも必要です。
特例が適用できるか確認したい場合には、税理士などの専門家への相談を検討しましょう。
相続税に適用できる控除で悩んだときは専門家に相談しよう
相続の控除制度は、家族構成や財産の内容によって適用条件や判断が大きく変わる可能性があります。
相続税の負担を軽減させるための対策を行うには、法律や税金に関する知識が必要です。
「申告は必要か」「控除の対象になるのか」などの疑問がある場合は、税理士などの専門家への相談をおすすめします。
相続問題に詳しい専門家に相談すれば、相続トラブルや納税リスクを防いだ上で、控除制度を最大限に活用できるでしょう。

弁護士法人ふくい総合法律事務所

最新記事 by 弁護士法人ふくい総合法律事務所 (全て見る)
- 相続税の基礎控除について。計算式と注意点 - 10月 12, 2025
- PayPayやSuicaなどの電子マネーの相続について - 9月 29, 2025
- 相続はプラスの財産だけもらうことは可能? - 9月 22, 2025
弁護士コラムの最新記事
- PayPayやSuicaなどの電子マネーの相続について
- 相続はプラスの財産だけもらうことは可能?
- 「相続・贈与・売買」の違い
- 内縁の妻に相続権はない?財産を渡す方法は?
- 甥姪は相続財産を取得できる?法定相続人になる?
- 相続税の申告期限はいつまで?遅れた場合は?延長はできる?
- 外国人配偶者がいる際の相続について
- 相続財産を全て配偶者が受け取る場合のポイントと注意点
- 相続にあたり財産を渡したくない人に戸籍から抜くことはできるのか?
- 相続のプロセスと手続きについて解説
- 相続の相談は弁護士?税理士?対応できる手続きの違い
- 連帯債務がある場合の相続への影響は?
- ペットに遺産を相続できる?
- 相続手続きの代理人を立てるケースと分類
- 遺産相続でのトラブルで裁判に発展するケースとは?
- 相続手続きに印鑑証明は必要?取得方法は?
- 養子に相続権はある?注意点は?
- 相続排除とは?認められる条件や手続きは?
- 相続における兄弟姉妹の遺留分は認められない!その理由は?
- 相続登記の義務化についての改正【具体的な内容について】
- 相続手続の後に出てきた財産の対応方法
- 現金のみの相続はどのように行う?預貯金とは違うの?
- 相続における被相続人のローンについての考え方
- 相続人と連絡がとれない場合の問題と対策
- 相続問題における裁判費用はどの位?
- いとこの遺産相続はできるのか?例外的にできるケース
- 相続財産調査とは?財産調査が必要な理由
- 相続の代償分割とは?メリットと注意点
- 相続が発生した際に知っておくべき銀行口座の解約方法
- 相続の持ち戻し特別受益の持ち戻しとは?計算方法なども解説
- 相続人が嘘をつくとどうなる?具体ケースと対処法
- 相続における利益相反とは?該当ケースと対処方法
- 相続をきっかけに財産を取り戻す返還請求(不当利得返還請求)とは?
- 相続問題の弁護士の選び方
- 相続人から訴えられたときの流れと注意点
- 相続人と連絡が取れないリスクと対処法
- 特別受益とは?計算方法や該当ケースを解説
- 相続預金の引き出し方|必要な書類は?
- 財産目録とは?記載内容と作成時のポイント
- 相続について無料で相談できる主な機関
- 相続の限定承認とは?内容や手続きを分かりやすく解説
- 相続放棄の基本的な流れとメリット・デメリット
- 相続税で気を付けておきたいペナルティ
- 遺産相続トラブル事例と防ぐポイント
- 相続の無料相談はどこにすべき?6つの相談先と特徴
- 相続欠格とは?相続権を失う5つの欠格事由
- 配偶者の法定相続分について|配偶者控除とは?
- 相続における遺言書の作成方法|どのような効果がある?
- 相続の遺産調停の基本的な流れポイント
- 相続の遺産分割協議書とは?作成手順は?
- 相続手続きはどこに依頼できる?選び方のポイントは?
- 相続は弁護士に相談すべき?依頼するメリット・デメリット
- 相続による土地の名義変更の流れ
- 相続財産に借金がある場合はどうする?借金の調査方法も解説
- 相続登記の登録免許税とは?計算方法や納付方法について解説
- 相続税における土地評価方法を解説|基本の流れや算定方式
- 相続税の配偶者控除とは?計算方法や手続きについて
- 相続手続きに必要な戸籍謄本の手続き・種類・取り方
- 相続の順位と遺産分割の割合
- 同居は相続に有利になる?寄与分の主張と認められるための要件
- 相続財産が少ない場合のポイント
- 相続の財産調査の対象は?自分で行える?
- 相続開始前3年以内の贈与は相続税の対象?対象外?2024年からの変更点は?
- 相続が少ない場合は手続きが必要?
- 相続手続きは自分でできる?自分で進める流れとデメリット
- 相続手続にかかる弁護士費用はいくら?
- 相続は税理士?弁護士?どの専門家に相談すべき?
- 相続額が少ない場合の申告は?気を付けるべき注意点
- 相続の遺産分割協議書とは?作成の流れや書き方
- 相続手続きの期限一覧|手続きごとの期限
- 相続人が認知症の場合の対応|成年後見制度のポイント
- 遺産相続手続の時効は?手続き別の時効
- 相続発生時に確定申告は必要?行わなければいけないケースは?
- 不動産相続の流れと種類
- 相続と贈与の違い
- 相続の基礎控除とは?計算方法や特例についても解説
- 遺産相続の遺留分とは?遺留分の適用範囲
- 相続で揉めるケースと原因、トラブルを回避するためのポイント
- 相続発生時のやることリスト
- 相続の相談先一覧と選び方
- 相続の暦年課税とは?メリットや相続時精算課税との違い
- へそくりに相続税はかかる?相続税申告の注意点
- 遺産分割調停の流れ