相続の基礎控除とは?計算方法や特例についても解説
〇この記事を読むのに必要な時間は約8分47秒です。
相続が発生した際、相続税の計算には基礎控除という重要な要素が関わってきます。
相続財産が基礎控除額に収まるかどうかは、多くの人が気になるポイントではないでしょうか。
今回の記事では、相続税の基礎控除額について、概要や計算方法などを詳しく解説します。
基礎控除で注意すべきポイントや、基礎控除以外で相続税に適用される控除・特例についても解説するため、ぜひ参考にしてみてください。
目次
相続税の基礎控除とは
相続税の基礎控除とは、相続税の計算で適用される非課税枠を指します。
相続が発生すると、亡くなった人の遺産を調査し、総額に応じた相続税を申告する必要があります。
しかし、相続税は基礎控除額を超えた範囲に対してのみ課税されるため、遺産総額が基礎控除額を超えなければ相続税の申告は不要となり、課税もされません。
以下では、基礎控除の計算方法と、計算にあたって重要となる「法定相続人」について解説していきます。
基礎控除の計算方法
相続税の基礎控除額の計算方法は、以下のとおりです。
基礎控除額=3,000万円 +(600万円×法定相続人の数) |
基本の控除額となる3,000万円に加えて、法定相続人の数が考慮されます。
たとえば、法定相続人が3人であった場合、3,000万円+(600万円×3)という計算式になるため、基礎控除額は4,800万円です。
法定相続人とは
法定相続人とは、被相続人(亡くなった人)の財産を相続する権利をもつ人です。
亡くなった人の配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の人は基本的に以下の順序で相続人となります。
・第1順位:子ども
・第2順位:父母や祖父母などの直系尊属
・第3順位:兄弟姉妹
基礎控除額には法定相続人の数が大きく影響するため、相続手続きにおける相続人調査は非常に重要なプロセスといえます。
遺産総額の計算方法
遺産総額は、プラスの財産からマイナスの財産を引いた金額です。
遺産総額=プラスの財産-マイナスの財産 |
プラスの財産だけでなく、借金や未払い金などマイナスの財産も含まれる点は押さえておくべきポイントです。
なお、相続人は亡くなった人の葬儀費用を負担するものとされており、通常必要となる葬儀費用は遺産総額から差し引けます。
遺産に含まれる財産の種類
遺産総額を計算する際に考慮する主な財産の種類は、以下のとおりです。
・現金
・預貯金
・土地や建物などの不動産
・有価証券
・死亡保険金や損害保険金
・貴金属・美術品・自動車・船舶など
・会員権・特許権・著作権など
・借金・未払い金
・未納の税金
・損害賠償の責任
財産調査に抜け漏れがあると、税務調査をされた場合に追徴課税が課される可能性もあるため注意が必要です。
相続税の基礎控除で注意すべきポイント
相続税の基礎控除における注意点として、次の3つが挙げられます。
・養子縁組は法定相続人に含める
・代襲相続が起きた場合
・相続放棄による影響
基礎控除の計算で勘違いしやすいポイントにもなるため、しっかり押さえておきましょう。
各注意点について、以下で詳しく解説していきます。
養子縁組は法定相続人に含める
亡くなった人が養子縁組をしていた場合、その養子は法定相続人となります。
法定相続人が増えると相続税の基礎控除額が増えるため、相続税対策として養子縁組が行われるケースもあります。
しかし、法定相続人となれる養子の人数には、以下の上限があるため注意が必要です。
・被相続人に実子がいる場合:法定相続人になる養子は1人まで
・被相続人に実子がいない場合:法定相続人になる養子は2人まで
上限を超えて養子縁組をしても、相続税の節税効果はありません。
代襲相続が起きた場合
代襲相続とは、法定相続人が相続開始前に亡くなった場合などに、その親族の子どもへ相続権が移転することです。
主な代襲相続のパターンには、以下の2つがあります。
・被相続人の子ども→孫
・被相続人の兄弟姉妹→甥姪(兄弟姉妹の子ども)
代襲相続が発生すると、法定相続人の人数が変わる可能性があり、基礎控除額が複雑になります。
相続放棄による影響
相続放棄とは、相続権のある相続人が、相続財産となる資産や負債などの権利・義務を引き継がずに放棄する手続きです。
この手続きが行われると法定相続人が減り、基礎控除額にも影響するものと考えられがちですが、実際は相続放棄は基礎控除額の計算に影響しません。
たとえば法定相続人が2人いるケースで、そのうちの1人が相続放棄したとしても、基礎控除額を算出する際は法定相続人を2人として計算します。
相続放棄による基礎控除額への影響も、相続税を計算するときの一つのルールとして覚えておきましょう。
基礎控除以外で相続税に適用できる控除
相続税には基礎控除のほかにも、適用できる控除や特例が存在します。
・配偶者控除
・未成年者控除
・障害者控除
・小規模宅地等の特例
・暦年課税分の贈与税額控除
これらの控除や特例には特定の条件が設けられていますが、活用できると相続税の負担を軽減できます。
どのような内容なのか、次で一つずつ見ていきましょう。
配偶者控除
亡くなった人の配偶者が遺産を相続する場合、「1億6,000万円」もしくは「法定相続分」までは配偶者控除によって相続税がかかりません。
法定相続分とは、民法で定められている各法定相続人の相続割合です。
配偶者控除を利用すれば、夫婦間の相続は1億6,000万円まで非課税となります。
ただし、配偶者控除を活用して全額を配偶者に相続してしまうと、配偶者が亡くなった際の二次相続で相続税が高額となる可能性があるため注意が必要です。
未成年者控除
18歳未満の未成年者が遺産を相続する場合、以下の計算式にもとづいた金額を相続税から控除できます。
未成年者控除額=(18歳 -相続開始時の年齢)×10万円 |
2022年4月1日から、未成年の年齢が18歳未満に引き下がり、未成年者控除の対象者も20歳未満から18歳未満となりました。
相続開始時の年齢は、1年未満を切り捨てて計算します。
障害者控除
障害者控除は、相続人が85歳未満で身体的、精神的障害をもっている場合に適用されます。
控除額の計算式は以下のとおりです。
障害者控除額=(85歳-相続開始時の年齢)×10万円 |
上記は一般障害者の控除額の算出方法ですが、特別障害者と認定されている人の場合は1年につき20万円の控除となります。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、一定の要件に当てはまる土地などを相続した場合に適用される、特例制度です。
相続財産に土地が含まれる場合、通常であれば土地の評価額(指標となる土地の価格)に応じた相続税が課税されます。
特例を適用すると、相続税の計算対象となる評価額を最大80%減額できますが、さまざまな要件が規定されているため注意が必要です。
暦年課税分の贈与税額控除
生前贈与した財産や支払った贈与税は、相続税の軽減につながる可能性があります。
相続を開始する前の3年以内に贈与した財産は、相続開始時に遺産として扱われるため、相続税課税の対象です。
しかし、生前贈与を受けた際に、すでに贈与税を支払っていた場合は、贈与税と相続税の二重課税となってしまいます。
そのため、財産贈与時に支払った贈与税額は、相続税から控除できます。
相続税の基礎控除額で悩んだら専門家に相談しよう
相続税の基礎控除はすべての人に適用されますが、控除額は法定相続人の数によって異なります。
基礎控除額の仕組みや計算方法に関する適切な知識をもっておくと、スムーズに相続手続きを進行させられるでしょう。
しかし、相続には複雑な手続きがともない、財産の調査漏れや相続人間のトラブルが生じる可能性もあります。
基礎控除額の計算や相続手続きに不安がある場合は、税理士や弁護士などの専門家へ相談してみるのがおすすめです。

弁護士法人ふくい総合法律事務所

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