相続と贈与の違い
〇この記事を読むのに必要な時間は約8分4秒です。
相続や贈与で財産を移動すると、財産を受け取った人はその金額に応じた相続税や贈与税を支払う必要があります。
財産を渡す際、相続と贈与はそもそも何が違うのか、どちらの方が得できるのか気になっている人は多いのではないでしょうか。
今回の記事では、相続と贈与の概要やそれぞれの違いについて詳しく解説していきます。
財産の移動や遺産計画を検討する際は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
贈与とは?
贈与とは、財産を保有する人(贈与者)が、自らの意思で財産を別の人(受贈者)に無償で渡す行為です。
贈与者と受贈者、双方の合意によって成立します。
一般的に贈与は現金や不動産などの形で、家族内・親族間で行われるケースが多いです。
しかし、贈与の対象者に制限はないため、知人・友人など第三者に対する贈与も可能となっています。
贈与税とは?
贈与税は、無償で受けた財産に対して課される税金です。
「暦年課税」という一般的な課税方法の場合、基礎控除額は受贈者一人につき年間110万円となっています。
年間110万円を超える贈与を受けた場合、受贈者は贈与税を申告し、金額に応じた贈与税を納めなければなりません。
また、贈与税のもう一つの課税方法に「相続時精算課税」があります。
贈与者が亡くなったときに贈与税と相続税をあわせて清算できるため、生前贈与の手続きを簡易化できるのがメリットです。
ただ、相続時精算課税は、対象者や贈与税の申告書を提出するなどの一定の条件があるので注意をしてください。
相続とは?
相続とは、亡くなった人の財産を、残された家族や親族が引き継ぐ行為です。
相続をする人(被相続人)が亡くなった時点で相続が開始され、遺言書の内容や遺産分割協議によって遺産を分割します。
遺産に含まれるのは、現金や預貯金・不動産などプラスの財産のほか、借金や未払い金といったマイナスの財産も含まれる点に注意が必要です。
民法では相続に関するさまざまなルールが決められており、状況によっては複雑な問題やトラブルを引き起こす可能性もあるでしょう。
相続税とは?
相続税は、相続によって財産を受け継いだ際にかかる税金です。
課税対象となるのは、亡くなった人の財産全体の価値から、特定の控除を差し引いた後の金額です。
この税金は、相続人ごとに計算され、各相続人の相続分に応じて納税義務が発生します。
また相続税の計算は複雑で、不動産評価や金融資産の評価、法定控除額の適用など、多くの要素が絡み合います。
相続税の申告と納税は、相続発生後一定期間内に行わなければならないため、悩んだときは専門家へ相談してみるのがおすすめです。
相続と贈与の主な違い
相続と贈与は、どちらも保有している財産を誰かに渡す方法ですが、いくつかの重要な違いがあります。
・合意の違い
・遺言書の有無の違い
・対象となる人物の違い
・税率の違い
・基礎控除額の違い
・特例制度の違い
適切な財産計画を立てるためにも、相続と贈与の違いを理解しておきましょう。
それぞれの違いについて、以下で詳しく解説していきます。
合意の違い
相続と贈与の大きな違いは、財産を渡す側と受け取る側の合意の有無にあります。
相続は、財産を保有している人が亡くなった際に行う手続きであり、双方の意思にかかわらず発生します。
財産を放棄するという選択も可能ですが、相続の発生には被相続人や相続人の意思は関係しません。
一方で贈与は、贈与者と受贈者の合意にもとづいて成立します。
贈与は双方の意思による明確な財産の移転であるため、受贈者は贈与を拒否する権利ももっています。
遺言書の有無の違い
遺言書の存在は、相続においては重要な役割を果たしますが、贈与には直接関連しません。
相続では、故人が遺言書を残していた場合、その遺言書に従って財産が分配されます。
遺言書は相続において必ずしも必要ではありませんが、故人の最終意思を反映し、相続人間の紛争を避けるために作成しておくべきといえるでしょう。
贈与の場合は、生前に行われる財産の移転であるため、遺言書の作成は不要です。
財産を受け渡したい相手に、任意のタイミングで行えるのが贈与の利点となります。
対象となる人物の違い
相続と贈与には、財産を渡す対象となる人物にも違いがあります。
相続の場合、対象となる人物は基本的に故人の法定相続人です。
法定相続人には配偶者・子ども・孫・親などの親族が含まれ、故人との関係性によって財産を譲り受ける権利が与えられます。
一方、贈与の場合は、贈与者が自由に贈与の対象となる人物を選択できます。
そのため、友人や知人など、相続権をもたない相手に対しても財産の贈与が可能です。
税率の違い
相続税と贈与税の税率は、10%~55%の8段階にわかれている点は一致していますが、それぞれ適用される財産の金額が異なります。
たとえば、相続税が最高税率の55%となるのは、法定相続分に応じた財産の取得金額が6億円を超える場合です。
対して贈与税が最高税率の55%となるのは、課税対象となる財産の価格が3,000万円、または4,500万円を超える場合です。
そのため、移転する財産の金額が同じであっても、税率は贈与税の方が高い傾向にあります。
基礎控除額の違い
相続と贈与には非課税となる基礎控除額が設定されており、その金額に違いがあります。
相続税の基礎控除額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で求められます。
一方、贈与税の基礎控除額は、贈与を受ける受贈者ごとに年間110万円です。
基礎控除の範囲内であれば、課税されずに財産を移転できます。
節税対策する場合は、相続と贈与の基礎控除額の違いを理解し、適切に活用しましょう。
特例制度の違い
相続と贈与のもう一つの違いは、利用できる特例制度です。
相続税には、小規模宅地等の特例や配偶者控除・未成年者控除など、一定の要件を満たす相続人が利用できる特例があります。
一方、贈与税には、結婚・子育て資金や教育資金の贈与など、特定の条件下で利用できる特例が存在します。
相続と贈与では適用できる特例制度の範囲と内容が異なり、それによって税金の負担が大きく変わる可能性もあるので注意してください。
相続と贈与はどちらがお得になる?
相続と贈与のどちらがお得になるかは、状況や目的によって異なります。
一般的に、相続は基礎控除額が大きく税率が低いため、大きな資産を一度に移動する際は相続が有利です。
しかし、贈与には受贈者一人につき年間110万円までの基礎控除があるので、複数年にわたって資産を移動させる場合は、税負担を抑えられる可能性があります。
節税対策として相続と贈与どちらが適しているかはケースバイケースのため、移動させる資産の総額やタイミング、利用できる特例などを考慮して選択しましょう。
相続と贈与の違いを理解し、適切な方法を選択しよう
相続と贈与には、それぞれ異なる特徴とメリットがあります。
そのため、相続と贈与の違いを理解し、自身の状況にあわせた最適な戦略を立てることが重要です。
財産管理や節税対策で悩んだら、税理士や弁護士などの専門家に相談するのをおすすめします。
専門知識をもった第三者からアドバイスやサポートを得られれば、より適切な判断ができるようになるでしょう。

弁護士法人ふくい総合法律事務所

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