相続における利益相反とは?該当ケースと対処方法
〇この記事を読むのに必要な時間は約8分43秒です。
相続手続きを進める上で、注意すべきポイントの一つが「利益相反」です。
利益相反とは、複数の当事者の利益が互いに対立してしまう行為を指します。
しかし、具体的にどのような状況で利益相反が発生するのか、どう対処すべきかわからないという方も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、相続における利益相反の概要や具体的なケース、対処方法について解説します。
目次
相続における利益相反とは
利益相反とは、当事者が複数いる場合に一方にとっては利益となり、もう一方にとっては不利益となる行為です。
相続においても、相続人間で利益相反が生じるケースがあります。
とくに未成年者や成年被後見人がかかわる相続では、当事者の間で利益相反が生じやすいです。
遺産の分け方を話し合う手続きである遺産分割協議は、利益相反が生じた状況で行うと無効となってしまいます。
不要なトラブルを避けるためにも、利益相反について適切に理解し対処を行いましょう。
利益相反となる可能性がある相続のケース
相続において利益相反となる可能性がある主なケースは、次のとおりです。
・未成年者が相続手続きを行う場合
・成年後見制度を利用している人が相続手続きを行う場合
どのような状況で利益相反が生じるのか、以下で具体的に確認していきましょう。
未成年者が相続手続きを行う場合
未成年者が相続人となり手続きを行う場合、利益相反が生じやすい状況となります。
相続手続きなどの法律行為は、未成年者が単独で行うことはできません。
未成年者が相続人となる場合、親権者が未成年者の法定代理人として手続きを進めるのが一般的です。
しかし、親権者自身も同じ遺産を相続する立場であると、親権者の利益と未成年者の利益が対立する可能性があります。
親権者が遺産を多く相続すると、未成年者が損をする状況になってしまうためです。
親権者と未成年者との間で利益相反が生じるケースでは、未成年者の利益を守るために特別代理人を選任する必要があります。
成年後見制度を利用している人が相続手続きを行う場合
成年後見制度を利用している人(成年被後見人)が相続手続きを行う場合、被後見人と後見人の間で利益相反が生じる可能性があります。
成年後見制度とは、認知症などで判断能力に不安がある人を保護するために、成年後見人が契約や手続きを援助する制度です。
成年被後見人と成年後見人がどちらも相続人となった場合、両者の間で利益相反が生じます。
たとえば、父が死亡し、成年被後見人の母と成年後見人の長男が相続人となったケースなどが該当します。
このようなケースでも、成年被後見人の利益を守るために特別代理人の選任が必要です。
利益相反が懸念されるときの対処方法
利益相反が懸念されるときの対処方法として挙げられるのは、次の3つです。
・特別代理人を選任する
・相続放棄を選択する
・遺言書を作成する
利益相反が生じたまま遺産分割協議を行った場合は、無効となる可能性があります。
3つの対処方法について、以下で詳しく見ていきましょう。
特別代理人を選任する
利益相反が問題となる際にまず検討すべき対処方法は、特別代理人の選定です。
特別代理人とは、未成年者や成年被後見人の利益や権利を守るために、代理で手続きを行う権限をもつ人です。
相続人の間で利益が相反する場合は、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。
選任された特別代理人が代わりに相続手続きを進めるため、公平性を担保しながら問題の解決を目指せます。
相続放棄を選択する
利益相反の発生を避けるための対処の一つとして、相続放棄の選択があります。
相続放棄とは、相続人が自ら相続権(被相続人の財産や権利義務を相続する権利)を放棄する手続きです。
たとえば、親権者と未成年者の間で利益相反が生じる場合に、親権者側が相続放棄するケースが挙げられます。
親権者が相続放棄を行えば、未成年者の法定代理人として相続手続きを代理できるようになります。
ただし、未成年者の子どもが複数人いる場合、相続放棄を行ったとしても利益相反の問題は解決しないため注意が必要です。
相続放棄や特別代理人の選任の判断に迷った際は、一度弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
遺言書を作成する
利益相反を未然に防ぐためには、遺言書の作成も有効です。
遺言書では、生前の意思で遺産分割の方法や相続割合、遺言執行者の指定などを行えます。
たとえば「配偶者に7割・子どもに3割の財産を相続させる」などと指定しておけば利益相反に該当せず、特別代理人が不要となります。
信頼できる専門家を遺言執行者として指定しておくことで、より確実に遺言書の内容が実現できるようになるでしょう。
相続手続きの手間やトラブルのリスクを軽減させたいときには、遺言書の作成を検討してみてください。
相続の利益相反対策で特別代理人を選任する際の準備と手順
相続における利益相反を解消するための対策として、特別代理人の選任は有効です。
ここでは、特別代理人を選任する上で知っておくべきポイントや手順について解説します。
・特別代理人になれる人とは?
・特別代理人の選任に必要な書類と費用
・特別代理人の選任申し立ての流れ
スムーズに相続手続きを進めるためにも、参考にしてみてください。
特別代理人になれる人とは?
特別代理人に資格は必要ないため、選任の対象となる人に利益相反が生じなければ誰でも代理人になれます。
法定相続人以外の親族を候補者として選任しても、問題ありません。
ただし、特別代理人には未成年者の利益を保護する役割があるため、裁判所に認められない可能性もあります。
候補者がいない場合や、裁判所が不適切と判断した場合は、弁護士や司法書士などの専門家が選任されます。
信頼できる専門家に依頼したい場合は、事前に専門家を探してから特別代理人を依頼するのもおすすめです。
特別代理人の選任に必要な書類と費用
特別代理人を選任する際に必要となる主な書類は、以下のとおりです。
・申立書
・未成年者の戸籍謄本
・親権者や未成年後見人の戸籍謄本
・特別代理人候補者の住民票または戸籍附票
・遺産分割協議書案など利益相反に関する資料
・利害関係人から申し立てる場合は利害関係人の戸籍謄本
費用については、裁判所に支払う収入印紙代(800円)と連絡用の郵便切手代(裁判所によって異なる)が必要です。
自分で専門家に依頼する場合は、別途報酬を支払う必要があります。
特別代理人の選任申し立ての流れ
特別代理人の選任申し立ては、基本的に以下のような手順で進めます。
1.必要書類の準備
2.家庭裁判所への申し立て
3.家庭裁判所から照会文書が送付される
4.回答文書や追加書類を返送する
5.審判結果が通知される
家庭裁判所から送付される照会文書では、不明な点を質問されたり追加書類を求められたりするため適宜対応が必要です。
申し立てから特別代理人の選任までは、1ヶ月程度かかります。
特別代理人の選任が必要とわかったときには、余裕をもって早めに手続きを進めましょう。
相続の利益相反で不安があれば弁護士に相談しよう
相続における利益相反は、主に未成年者や成年被後見人がかかわる状況で発生しやすい問題です。
利益相反が生じる場合に公平な遺産分割を行うためには、特別代理人を選任する必要があります。
相続に関する疑問がある場合や相続人間のトラブルが予想される場合は、なるべく早い段階で弁護士などの専門家へ相談しましょう。
弁護士は、状況に応じたアドバイスを提供できるだけでなく、相続手続きに関する総括的なサポートが可能です。
手間のかかる交渉や手続きを弁護士に任せることで、相続人の負担を大きく軽減できます。
弁護士法人ふくい総合法律事務所
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