遺産相続でのトラブルで裁判に発展するケースとは?
〇この記事を読むのに必要な時間は約8分31秒です。 相続をめぐるトラブルでは、調停や審判・裁判などの法的手続きに発展するケースがあります。
どのようなケースで裁判となるのか、また有利に進めるためにはどうすればいいのか悩む人も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、裁判に至る代表的な相続のケースや、裁判を有利に進めるためのポイントについて解説します。
目次
遺産分割の相続トラブルは裁判ではなく調停・審判で解決する
相続に関する遺産分割のトラブルは、話し合いで解決するのが原則です。
しかし、相続人間の話し合いで解決するのが困難な場合は、家庭裁判所での遺産分割調停や審判を通じて解決を図ります。
遺産分割調停とは、相続財産をどのように分割するかについて、裁判官と調停委員を介して話し合って合意を目指す手続きです。
相続人全員の合意が得られず遺産分割調停が不成立となった場合は、自動的に遺産分割審判へ移行します。
遺産分割審判とは、証拠や当事者の主張をもとにして、裁判官が最終的な判断を下す手続きです。
相続人は調停で合意した内容、もしくは審判で下された内容に従って遺産分割を進めます。
相続トラブルで裁判に発展する6つのケース
相続に関するトラブルの中でも、裁判となるのは「遺産分割の前提となる内容」で揉めているケースです。
具体的に裁判となりうる相続問題として、以下の6つのケースが挙げられます。
・相続財産の範囲に争いがある場合
・相続人の範囲に争いがある場合
・遺産の使い込みが疑われる場合
・遺言書の有効性が疑われる場合
・遺産分割協議の有効性が疑われる場合
・遺留分の侵害があった場合
これらが争点となっている場合、遺産分割調停や審判で解決しようとしても申し立てを受け付けてもらえない可能性があります。
遺産分割調停・審判は、相続財産の分割方法を話し合う手続きであり、前提となる事実に問題があると進行が困難になるためです。
裁判に発展する可能性のあるケースについて、以下で一つずつ確認していきましょう。
相続財産の範囲に争いがある場合
相続財産の範囲に争いがある場合は、「遺産確認訴訟」を提起できます。
たとえば、不動産名義の勝手な移転や財産隠し、別名義で所有していた預金などが争点になるケースが多いです。
所有者が不明確な財産や隠し財産がある場合、遺産分割前に明らかにしておかなければなりません。
遺産確認訴訟を行うことで、遺産分割の対象となる財産の範囲を確定できます。
相続人の範囲に争いがある場合
誰が相続人としての権利をもつのかが争われるケースも、裁判に発展しやすい典型例です。
相続人の範囲が不明確な場合は、「相続人の地位不存在確認訴訟」を提起できます。
相続人の地位不存在確認訴訟が行われるのは、相続欠格に該当する場合や、不正な婚姻・養子縁組が疑われる場合などです。
訴訟を提起することで相続人が明らかになり、遺産分割が正しく行えるようになります。
遺産の使い込みが疑われる場合
遺産の使い込みが疑われる場合は、「不当利得返還請求訴訟」を提起できます。
特定の相続人が被相続人の預金を無断で引き出したり、不正に資産を移したりした場合は、遺産の使い込みとして問題になります。
この場合、使い込んだ相続人は遺産を返還するか、使い込んだ遺産額相当の金銭で賠償しなければなりません。
請求には時効があり、遺産の使い込みを知ったときから5年、もしくは使い込まれたときから10年で完成するため注意が必要です。
遺言書の有効性が疑われる場合
遺言書の無効を主張したい場合には、「遺言無効確認訴訟」を提起します。
遺言無効確認訴訟が提起されるのは、被相続人の遺言能力の欠如や、脅迫・錯誤による作成が疑われる場合などです。
遺言書が有効でない場合、遺産分割協議を行ってあらためて相続財産の分け方を話し合わなければなりません。
生前に聞いていた話と遺言の内容が明らかに異なるなどの不審な点がある場合は、訴訟を提起して有効性を明らかにしましょう。
遺産分割協議の有効性が疑われる場合
一度合意した遺産分割協議でも、その後に無効を主張できるケースがあります。
たとえば、協議に加わるべき相続人が参加していなかった場合や、脅迫や錯誤によって合意が形成された場合などです。
このようなケースでは、「遺産分割協議無効確認訴訟」を提起できます。
訴訟によって遺産分割協議の無効が認められれば、やり直しが可能です。
遺留分の侵害があった場合
遺留分の侵害があった場合、相続人は「遺留分侵害額請求」が可能です。
遺留分とは、特定の相続人に保証された最低限の相続財産の取り分を指します。
遺言や生前贈与によって著しく不利な扱いを受けたとき、相続人は遺留分侵害額請求によって相続財産の取り戻しができます。
請求した相手が支払いに応じない場合は、「遺留分侵害額請求訴訟」の提起を検討しましょう。
相続に関する裁判を有利に進めるためのポイント
相続に関する裁判を有利に進めるためには、次のようなポイントを押さえておく必要があります。
・有効な証拠を集める
・説得力のある書面を作成する
・譲れる部分と譲れない部分を決めておく
・信頼できる弁護士に依頼する
事前にこれらの準備を進めることで、一貫性のある主張ができ、裁判官からの信頼を得られるでしょう。
それぞれのポイントについて、以下で詳しく解説していきます。
有効な証拠を集める
裁判では、証拠の有無が重要となります。
正当な主張をしていたとしても、客観的に裏付ける有効な証拠がなければ認められません。
相続トラブルが予想される場合は、早期から関連資料を確保することで有利に働く可能性があります。
遺言書・預金通帳・不動産登記簿・契約書類・病院の診断書など、証拠となり得る資料はできるだけ多く集めておきましょう。
説得力のある書面を作成する
裁判で提出する訴状や答弁書などの書面は、裁判官の理解を得るために非常に重要です。
主張の根拠や経緯をわかりやすくまとめ、読みやすい内容にすることを心がけましょう。
書面の内容に一貫性があると、当事者の信頼性を高める材料にもなります。
個人で説得力のある裁判書類を用意するのは困難なため、早めに弁護士に相談し、サポートを受けながら作成するのが望ましいです。
譲れる部分と譲れない部分を決めておく
相続に関する裁判では、すべての主張が認められるとは限りません。
自分にとって何がもっとも重要か、またどこまでなら譲歩できるかを明確にしておくことで、戦略的に交渉を進められるでしょう。
すべてに固執すると不利な結果になる可能性もあるため、冷静に判断する必要があります。
訴訟を提起する際は、事前にある程度の優先順位を決めておくようにしましょう。
信頼できる弁護士に依頼する
信頼できる弁護士に相談・依頼することも、裁判を有利に進めるためのポイントです。
相続問題の裁判では感情的な対立が生じやすく、専門的な知識が必要な場面も多くあります。
相続分野に詳しい弁護士であれば、法的な視点だけでなく、交渉や裁判の流れについても的確なアドバイスが得られるでしょう。
また、証拠集めや書面作成・裁判所での主張などを総合的にサポートしてもらうことで、精神的な負担も大きく軽減されます。
相続トラブルで裁判になりそうな場合は早めに弁護士へ相談しよう
相続トラブルには感情や利害の問題が絡むため、自力での解決が難しいケースも少なくありません。
問題が発生したときは、深刻化する前に弁護士へ相談しましょう。
早期の相談によって、親族関係の悪化や法的な対立を防げる可能性があります。
また、弁護士に相談していれば、裁判に発展した場合でも適切に対応できるでしょう。

弁護士法人ふくい総合法律事務所

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