ペットに遺産を相続できる?
〇この記事を読むのに必要な時間は約8分29秒です。
ペットも家族の一員として共に暮らす人が増える中、飼い主が亡くなった後のペットの飼育や遺産との関係に関心が高まっています。
とくに、不自由なく生活できるよう「ペットに遺産を相続させたい」と考える人も多いのではないでしょうか。
ペットへの直接の遺産相続はできませんが、遺産を相続する条件にペットの飼育を含めることは可能です。
今回の記事では、ペットに関する遺産相続の基本と、安心して託すための方法について解説します。
目次
遺産相続におけるペットの取り扱い
ペットは大切な家族の一員ですが、民法上は「動産」として扱われます。
動産とは、不動産以外のすべての財産です。
・ペットには直接遺産相続できない
・ペットは被相続人の財産として遺産分割の対象となる
以下では、ペットに直接遺産を残せない理由と、ペットの法的な立場について確認していきましょう。
ペットには直接遺産相続できない
前述のとおり、ペットは民法上、現金や株式・家財などの財産と同様に「動産」として扱われます。
相続は「人」に対して行われる制度であり、ペットのような動物には直接遺産を相続できません。
たとえば、「飼っている犬に100万円を相続させる」と遺言書に記載しても、無効とされてしまいます。
ペットは法的に相続人とは認められないため、ほかの方法でペットの生活費や世話を託す仕組みを考える必要があります。
ペットは被相続人の財産として遺産分割の対象となる
ペットは、被相続人(亡くなった人)の財産の一部とされます。
したがって、遺産分割の際には、ほかの財産と同様に「誰が引き取るか」という話し合いの対象となります。
親族間では、「被相続人のペットの世話をする責任」が問題になるケースも多いです。
誰も引き取り手がいない場合、ペットが行き場を失ってしまうおそれもあるでしょう。
そのため、誰にペットの飼育を任せるか、必要な費用をどう工面するかといった点は、生前に決めておくことが重要です。
ペットの世話を条件として遺産を相続する方法
ペットへの遺産相続はできませんが、「ペットの世話」を条件にして遺産を渡すことは可能です。
・負担付遺贈
・負担付死因贈与
・ペット信託
これらの方法により、飼い主が亡くなった後もペットが安心して暮らせる環境を確保できるでしょう。
以下では、それぞれの仕組みと特徴を詳しく解説していきます。
負担付遺贈
負担付遺贈とは、「特定の財産を与える代わりに一定の義務を負担させる遺贈」です。
たとえば「犬の世話を条件に○○に300万円を遺贈する」といった内容の遺言を残せば、世話をする人に遺産を渡せます。
ただし、受け取る側はその義務を受け入れるかどうかを選べるため、場合によっては拒否される可能性があります。
遺言書に負担付遺贈の旨を記載する際は、あらかじめ合意を得ておくようにしましょう。
また、遺言書にはいくつかの種類がありますが、確実性を高めるためには「公正証書遺言」による作成をおすすめします。
公正証書遺言は公証役場の公証人に作成してもらう遺言書で、無効となるリスクが低い点がメリットです。
負担付死因贈与
負担付死因贈与とは、生前に一定の義務を負担させる条件で贈与契約を結び、死亡時に効力が生じる贈与です。
負担付遺贈と似ていますが、生前の契約によって成立する点が異なります。
たとえば「私の死後、猫の世話をすることを条件に財産を贈与する」といった契約を結べば負担付死因贈与となります。
死因贈与は契約であるため、当事者間の合意が必要です。
口頭でも成立はしますが、後のトラブルを防ぐために公正証書で契約書を作成しておくようにしましょう。
ペット信託
ペット信託とは、飼い主が亡くなった場合などに備えて、ペットの世話と飼育費用を託すための仕組みです。
ペット信託を締結する際は、飼い主である委託者が、信頼できる第三者を受託者として信託契約を結びます。
飼い主が健康なうちは本人が世話をし、世話ができなくなった場合に、信託で指定された受益者がペットの世話を行います。
餌の時間やトリミングの頻度など、希望する飼育条件がある場合には信託契約書で指定することも可能です。
きちんとペットの世話が行われるか不安な場合には、別途信託監督人を指定するようにしましょう。
信託監督人がいれば、ペット引き渡し後の世話の状況や信託財産の管理について監督を任せられます。
遺産相続後のペットの飼育先の候補
飼い主が亡くなった後、ペットの安全な生活を守るためには、引き取られる先を明確にしておく必要があります。
・親族
・友人や知人
・ペット関連の事業者
・老犬ホーム・老猫ホーム
・保護団体
誰に託すかを決めたら、生前に意向を確認した上で同意を得ておくことが望ましいです。
以下では、遺産相続後にペットを引き取ってもらう可能性のある5つの飼育先候補について解説していきます。
親族
もっとも一般的なペットの引き取り先として考えられるのが、親族です。
飼い主とのつながりやペットに対する愛着があれば、スムーズに引き渡しできるケースも多いでしょう。
ただし、高齢であったりペット不可の賃貸に住んでいたりと、必ずしも飼育を引き受けられる状況にあるとは限りません。
事前に相談し、世話の受け入れが可能かどうかをしっかり話し合っておきましょう。
友人や知人
親族以外で信頼できる人に預けたい場合は、友人や知人に引き取りを依頼する方法もあります。
身近な人が引き取ってくれることになれば、大切なペットも安心して預けられるでしょう。
ただし、ペットの世話が長期的な負担になってしまう可能性もあります。
友人・知人を頼る際は、金銭的支援や必要な物資の提供なども考慮した上で依頼するようにしましょう。
ペット関連の事業者
ペットホテルやトリミングサロン・動物病院といった事業者は、ペットの引き取りや里親探しをサポートしている可能性があります。
専門的な知識や環境が整っており、一時的な預かり先としては安心できる選択肢です。
普段から利用している場所であれば引き受けてくれる可能性があるため、一度相談してみるといいでしょう。
老犬ホーム・老猫ホーム
高齢のペットを安心して預けたい場合は、老犬ホームや老猫ホームを利用する選択肢もあります。
老犬ホーム・老猫ホームとは、高齢ペットの飼育施設で、飼い主の代わりに世話や介護をしてくれるサービスです。
終身で預かってくれる施設もあるため、事前に相談や見学をしておくといいでしょう。
ただし、入所費や月額費用などの費用負担の計画は立てておく必要があります。
保護団体
NPO法人や動物保護団体に相談する方法もあります。
譲渡活動を積極的に行っている保護団体であれば、新しい里親を見つけてもらえる可能性もあるでしょう。
受け入れ条件や活動方針は保護団体によって異なるため、事前に情報収集を行っておく必要があります。
必ず受け入れてもらえるとは限らないため、まずはほかの方法で引き取り先を探し、見つからない場合の候補として検討しましょう。
ペットを含む遺産の相続方法に悩んだら専門家に相談しよう
ペットの将来を守るためには、法律や制度を理解した上で備えることが重要です。
どんなに飼い主の想いがあっても、事前準備をしていなければ理想通りに引き継ぐのは難しくなるでしょう。
法的な手続きや信頼できる第三者への委託には、専門的な知識が求められます。
そのため、悩んだときはできるだけ早く弁護士や司法書士といった専門家に相談しましょう。
相続問題や信託契約に詳しい専門家であれば、どの手続きが最適か、またどのように準備を進めるべきかアドバイスが受けられます。

弁護士法人ふくい総合法律事務所

最新記事 by 弁護士法人ふくい総合法律事務所 (全て見る)
- ペットに遺産を相続できる? - 6月 17, 2025
- 6月14日(土)の休日相続・遺言無料相談会の受付は終了しました。 - 6月 13, 2025
- 相続手続きの代理人を立てるケースと分類 - 6月 3, 2025
弁護士コラムの最新記事
- 相続手続きの代理人を立てるケースと分類
- 遺産相続でのトラブルで裁判に発展するケースとは?
- 相続手続きに印鑑証明は必要?取得方法は?
- 養子に相続権はある?注意点は?
- 相続排除とは?認められる条件や手続きは?
- 相続における兄弟姉妹の遺留分は認められない!その理由は?
- 相続登記の義務化についての改正【具体的な内容について】
- 相続手続の後に出てきた財産の対応方法
- 現金のみの相続はどのように行う?預貯金とは違うの?
- 相続における被相続人のローンについての考え方
- 相続人と連絡がとれない場合の問題と対策
- 相続問題における裁判費用はどの位?
- いとこの遺産相続はできるのか?例外的にできるケース
- 相続財産調査とは?財産調査が必要な理由
- 相続の代償分割とは?メリットと注意点
- 相続が発生した際に知っておくべき銀行口座の解約方法
- 相続の持ち戻し特別受益の持ち戻しとは?計算方法なども解説
- 相続人が嘘をつくとどうなる?具体ケースと対処法
- 相続における利益相反とは?該当ケースと対処方法
- 相続をきっかけに財産を取り戻す返還請求(不当利得返還請求)とは?
- 相続問題の弁護士の選び方
- 相続人から訴えられたときの流れと注意点
- 相続人と連絡が取れないリスクと対処法
- 特別受益とは?計算方法や該当ケースを解説
- 相続預金の引き出し方|必要な書類は?
- 財産目録とは?記載内容と作成時のポイント
- 相続について無料で相談できる主な機関
- 相続の限定承認とは?内容や手続きを分かりやすく解説
- 相続放棄の基本的な流れとメリット・デメリット
- 相続税で気を付けておきたいペナルティ
- 遺産相続トラブル事例と防ぐポイント
- 相続の無料相談はどこにすべき?6つの相談先と特徴
- 相続欠格とは?相続権を失う5つの欠格事由
- 配偶者の法定相続分について|配偶者控除とは?
- 相続における遺言書の作成方法|どのような効果がある?
- 相続の遺産調停の基本的な流れポイント
- 相続の遺産分割協議書とは?作成手順は?
- 相続手続きはどこに依頼できる?選び方のポイントは?
- 相続は弁護士に相談すべき?依頼するメリット・デメリット
- 相続による土地の名義変更の流れ
- 相続財産に借金がある場合はどうする?借金の調査方法も解説
- 相続登記の登録免許税とは?計算方法や納付方法について解説
- 相続税における土地評価方法を解説|基本の流れや算定方式
- 相続税の配偶者控除とは?計算方法や手続きについて
- 相続手続きに必要な戸籍謄本の手続き・種類・取り方
- 相続の順位と遺産分割の割合
- 同居は相続に有利になる?寄与分の主張と認められるための要件
- 相続財産が少ない場合のポイント
- 相続の財産調査の対象は?自分で行える?
- 相続開始前3年以内の贈与は相続税の対象?対象外?2024年からの変更点は?
- 相続が少ない場合は手続きが必要?
- 相続手続きは自分でできる?自分で進める流れとデメリット
- 相続手続にかかる弁護士費用はいくら?
- 相続は税理士?弁護士?どの専門家に相談すべき?
- 相続額が少ない場合の申告は?気を付けるべき注意点
- 相続の遺産分割協議書とは?作成の流れや書き方
- 相続手続きの期限一覧|手続きごとの期限
- 相続人が認知症の場合の対応|成年後見制度のポイント
- 遺産相続手続の時効は?手続き別の時効
- 相続発生時に確定申告は必要?行わなければいけないケースは?
- 不動産相続の流れと種類
- 相続と贈与の違い
- 相続の基礎控除とは?計算方法や特例についても解説
- 遺産相続の遺留分とは?遺留分の適用範囲
- 相続で揉めるケースと原因、トラブルを回避するためのポイント
- 相続発生時のやることリスト
- 相続の相談先一覧と選び方
- 相続の暦年課税とは?メリットや相続時精算課税との違い
- へそくりに相続税はかかる?相続税申告の注意点
- 遺産分割調停の流れ