外国人配偶者がいる際の相続について
〇この記事を読むのに必要な時間は約8分36秒です。
日本で暮らす家族の中には、国際結婚により配偶者が外国籍というケースも増えています。
配偶者が外国人である場合は、相続における手続きや法的な取り扱いが通常と異なる場面もあるため注意が必要です。
今回の記事では、被相続人の配偶者が外国人である場合の相続に関する基本的な考え方や注意点などについて解説します。
スムーズに相続手続きを進めるためにも、ぜひ参考にしてみてください。
目次
被相続人の配偶者が外国人である場合の相続の考え方
被相続人の配偶者が外国籍であっても、相続人としての権利や義務は日本国籍の相続人と変わりません。
しかし、相続人が外国籍である場合は「国際相続」として扱われ、通常の手続きとは異なる場合があります。
・国際相続(渉外相続)となるケース
・原則として被相続人の国籍の法律に従って相続する
・遺言は外国の方式であっても有効となる
以下では、国際相続の基礎知識について確認していきましょう。
国際相続(渉外相続)となるケース
相続人や相続財産が国境をまたぐ相続を、「国際相続」または「渉外相続」といいます。
代表的な国際相続のケースは、以下のとおりです。
・被相続人が外国籍の場合
・相続人に外国籍の人がいる場合
・被相続人や相続人が日本国外に住んでいる場合
・相続財産の一部またはすべてが日本国外にある場合
国際相続に該当する場合は、まずどの国の法律に沿って相続を行うべきかを確認する必要があります。
原則として被相続人の国籍の法律に従って相続する
日本における国際相続では、「被相続人の国籍の法律」を適用することが原則です。
そのため、亡くなった被相続人が日本人である場合は、日本の法律に従って相続を進めます。
相続人に外国人が含まれていたとしても、日本の民法に定められた相続順位などに違いはありません。
被相続人と法的な婚姻関係にある配偶者に関しては、基本的にどのような場合においても相続人となります。
なお、外国人の場合は戸籍にかかわる書類などを取得できない可能性があるため、相続手続きに手間がかかる点に注意が必要です。
遺言は外国の方式であっても有効となる
有効な遺言書を作成するためには、法律で定められた方式を守らなければなりません。
外国の方式で作成された遺言書であっても、以下の条件のいずれかの法律の基準を満たしていれば有効となります。
・遺言を作成した当時の国籍・住所・居住地の法律
・死亡時の国籍・住所・居住地の法律
・遺言を作成した場所の法律
・不動産の所在地の法律(不動産に関する遺言)
たとえば、外国に移住していた被相続人が現地で遺言書を作成した場合、現地の法律で有効な内容であれば日本でも有効です。
日本の方式で作成された遺言書ではない場合、弁護士などの専門家に相談して有効性を確認することをおすすめします。
配偶者が外国人である場合の相続手続きにおける注意点
配偶者が外国籍である場合、相続手続きにおいて通常のケースとは異なる注意点があります。
代表的な注意点は、次の2つです。
・不動産が含まれる場合は相続登記が必要
・相続人が外国人であっても相続税は課税される
以下では、それぞれのポイントを解説していきます。
不動産が含まれる場合は相続登記が必要
被相続人が日本国籍である場合、不動産が含まれる相続では「相続登記」が必要となります。
相続登記とは、被相続人から相続人へ不動産の名義を変更する手続きです。
令和6年4月からは相続登記申請が義務化されたため、正当な理由なく申請を怠った場合には罰則が科される可能性があります。
不動産を相続するのが外国人の配偶者である場合も、通常のケースと同様に相続登記の申請が必要です。
申請期限は相続により不動産の取得を知った日から年以内となっているため、早めに準備を進めるようにしましょう。
相続人が外国人であっても相続税は課税される
相続人が外国人である場合も、基本的に相続税は課税されます。
日本の税法では、被相続人・相続人の居住地や財産の所在地によって課税範囲が決まります。
たとえば、被相続人が国内に住んでいた場合、相続人の国籍にかかわらず、国内外すべての財産に相続税が課されるのが原則です。
ただし、配偶者は相続税の非課税枠のほか配偶者控除も適用できるため、実際の納税額は個々の状況によって大きく異なります。
配偶者控除とは、配偶者が相続した財産は法定相続分相当額、または1億6千万円のどちらか大きい額まで非課税となる制度です。
必要に応じて税務署や税理士などと連携し、適正に申告を行いましょう。
外貨建ての財産は日本円に換算する
相続税の課税対象となる相続財産に外貨建ての財産が含まれている場合、日本円に換算して評価されます。
評価時点は、被相続人が亡くなった日(相続開始日)です。
資産は「対顧客直物電信買相場(TTB)」で換算され、債務は「対顧客直物電信売相場(TTS)」で換算されます。
不動産の評価に関しては、日本と同じ方法による評価が難しい場合は、現地の専門家に依頼して査定してもらいましょう。
配偶者が外国人で相続の必要書類が取得できないときの対処方法
外国人配偶者が相続人となる場合、日本国内の手続きで求められる書類の取得が困難なケースがあります。
このような状況でも、相続手続きを進めるための代替方法や対応策は用意されています。
・戸籍謄本が取得できない場合
・住民票の写しが取得できない場合
・印鑑証明書が取得できない場合
以下では、それぞれの書類が取得できない場合の具体的な対処方法について見ていきましょう。
戸籍謄本が取得できない場合
外国籍の配偶者は日本に戸籍がないため、戸籍謄本の取得ができません。
戸籍制度のある国であればその国の戸籍を利用できますが、戸籍制度がない国の場合は別の書類で代用する必要があります。
戸籍謄本の代わりに相続人であることを証明する際は、以下のような書類を用意しましょう。
・出生証明書
・婚姻証明書
・死亡証明書
・宣誓供述書(公証人や大使館・領事館の認証を得たもの)
なお、これらの書類を相続手続きで利用する場合は、日本語の翻訳文の添付も必要です。
住民票の写しが取得できない場合
不動産の相続登記を申請する際は、相続人の住民票の写しが必要となります。
しかし、外国人配偶者が日本に住民登録をしていない場合は、住民票の写しを取得できません。
このような場合は、代用として宣誓供述書を取得します。
宣誓供述書とは、外国籍の人が大使館・領事館や公証人の面前で宣言したことを証明する文書です。
宣誓供述書に日本語の翻訳文を添付することで、住民票の写しの代わりとなります。
印鑑証明書が取得できない場合
遺産分割協議書を作成した際は、相続人全員の実印を押印した上で印鑑証明書を添付する必要があります。
外国人配偶者が印鑑登録をしていない場合には、「署名証明書」で代用が可能です。
署名証明書とは、本人のサインであることを大使館や領事館、公証人が証明する書類です。
印鑑登録書の代わりに署名証明書を使用する際は、遺産分割協議書に直筆でサインをして、署名証明書を添付しましょう。
被相続人の配偶者が外国人の場合は専門家への相談を検討しよう
外国籍の配偶者がかかわる相続では、法律や制度の違いから予期せぬトラブルに直面するケースも少なくありません。
被相続人が日本人であれば日本の法律を適用できますが、相続税の計算や必要書類の準備が複雑になる可能性があります。
トラブルを未然に防ぎ、スムーズに相続を完了させるためには、弁護士や司法書士、税理士などの専門家に相談するのが有効です。
海外の手続きに詳しい専門家に相談することで、書類準備や手続きの進め方について的確なアドバイスを得られるでしょう。

弁護士法人ふくい総合法律事務所

最新記事 by 弁護士法人ふくい総合法律事務所 (全て見る)
- 外国人配偶者がいる際の相続について - 7月 31, 2025
- 相続財産を全て配偶者が受け取る場合のポイントと注意点 - 7月 28, 2025
- 相続にあたり財産を渡したくない人に戸籍から抜くことはできるのか? - 7月 20, 2025
弁護士コラムの最新記事
- 相続財産を全て配偶者が受け取る場合のポイントと注意点
- 相続にあたり財産を渡したくない人に戸籍から抜くことはできるのか?
- 相続のプロセスと手続きについて解説
- 相続の相談は弁護士?税理士?対応できる手続きの違い
- 連帯債務がある場合の相続への影響は?
- ペットに遺産を相続できる?
- 相続手続きの代理人を立てるケースと分類
- 遺産相続でのトラブルで裁判に発展するケースとは?
- 相続手続きに印鑑証明は必要?取得方法は?
- 養子に相続権はある?注意点は?
- 相続排除とは?認められる条件や手続きは?
- 相続における兄弟姉妹の遺留分は認められない!その理由は?
- 相続登記の義務化についての改正【具体的な内容について】
- 相続手続の後に出てきた財産の対応方法
- 現金のみの相続はどのように行う?預貯金とは違うの?
- 相続における被相続人のローンについての考え方
- 相続人と連絡がとれない場合の問題と対策
- 相続問題における裁判費用はどの位?
- いとこの遺産相続はできるのか?例外的にできるケース
- 相続財産調査とは?財産調査が必要な理由
- 相続の代償分割とは?メリットと注意点
- 相続が発生した際に知っておくべき銀行口座の解約方法
- 相続の持ち戻し特別受益の持ち戻しとは?計算方法なども解説
- 相続人が嘘をつくとどうなる?具体ケースと対処法
- 相続における利益相反とは?該当ケースと対処方法
- 相続をきっかけに財産を取り戻す返還請求(不当利得返還請求)とは?
- 相続問題の弁護士の選び方
- 相続人から訴えられたときの流れと注意点
- 相続人と連絡が取れないリスクと対処法
- 特別受益とは?計算方法や該当ケースを解説
- 相続預金の引き出し方|必要な書類は?
- 財産目録とは?記載内容と作成時のポイント
- 相続について無料で相談できる主な機関
- 相続の限定承認とは?内容や手続きを分かりやすく解説
- 相続放棄の基本的な流れとメリット・デメリット
- 相続税で気を付けておきたいペナルティ
- 遺産相続トラブル事例と防ぐポイント
- 相続の無料相談はどこにすべき?6つの相談先と特徴
- 相続欠格とは?相続権を失う5つの欠格事由
- 配偶者の法定相続分について|配偶者控除とは?
- 相続における遺言書の作成方法|どのような効果がある?
- 相続の遺産調停の基本的な流れポイント
- 相続の遺産分割協議書とは?作成手順は?
- 相続手続きはどこに依頼できる?選び方のポイントは?
- 相続は弁護士に相談すべき?依頼するメリット・デメリット
- 相続による土地の名義変更の流れ
- 相続財産に借金がある場合はどうする?借金の調査方法も解説
- 相続登記の登録免許税とは?計算方法や納付方法について解説
- 相続税における土地評価方法を解説|基本の流れや算定方式
- 相続税の配偶者控除とは?計算方法や手続きについて
- 相続手続きに必要な戸籍謄本の手続き・種類・取り方
- 相続の順位と遺産分割の割合
- 同居は相続に有利になる?寄与分の主張と認められるための要件
- 相続財産が少ない場合のポイント
- 相続の財産調査の対象は?自分で行える?
- 相続開始前3年以内の贈与は相続税の対象?対象外?2024年からの変更点は?
- 相続が少ない場合は手続きが必要?
- 相続手続きは自分でできる?自分で進める流れとデメリット
- 相続手続にかかる弁護士費用はいくら?
- 相続は税理士?弁護士?どの専門家に相談すべき?
- 相続額が少ない場合の申告は?気を付けるべき注意点
- 相続の遺産分割協議書とは?作成の流れや書き方
- 相続手続きの期限一覧|手続きごとの期限
- 相続人が認知症の場合の対応|成年後見制度のポイント
- 遺産相続手続の時効は?手続き別の時効
- 相続発生時に確定申告は必要?行わなければいけないケースは?
- 不動産相続の流れと種類
- 相続と贈与の違い
- 相続の基礎控除とは?計算方法や特例についても解説
- 遺産相続の遺留分とは?遺留分の適用範囲
- 相続で揉めるケースと原因、トラブルを回避するためのポイント
- 相続発生時のやることリスト
- 相続の相談先一覧と選び方
- 相続の暦年課税とは?メリットや相続時精算課税との違い
- へそくりに相続税はかかる?相続税申告の注意点
- 遺産分割調停の流れ