相続の「単純承認」とは?メリット・デメリットと注意点を弁護士が解説
〇この記事を読むのに必要な時間は約8分22秒です。 
相続が発生すると、相続人は相続財産をどのように受け継ぐかを選択する必要があります。
その相続方法の一つが、被相続人(亡くなった人)の財産をすべて引き継ぐ「単純承認」です。
単純承認は特別な手続きが不要なため、多くの人が選びやすい選択肢といえます。
しかし、知らずにマイナスの財産まで相続してしまうリスクもあるため、正しい理解と慎重な判断が必要です。
今回の記事では、単純承認の基本的な仕組みやほかの相続方法との違い、注意点などについて解説します。
相続方法の選択で迷っている人は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
相続の単純承認とは?

「単純承認」とは、相続人になったときに選択できる相続方法の一つです。
単純承認を選択すると、被相続人が残したすべての財産を無条件で引き継ぐことになります。
・単純承認は被相続人の財産をすべて引き継ぐ方法
・単純承認に特別な手続きは不要
以下では、単純承認の基本的な仕組みについて詳しく見ていきましょう。
単純承認は被相続人の財産をすべて引き継ぐ方法
単純承認とは、被相続人の保有していたすべての財産を、そのまま相続人が受け継ぐ相続方法です。
相続の対象には、預貯金や不動産といったプラスの財産はもちろん、借金や保証債務などのマイナスの財産も含まれます。
相続では、「財産=プラスの財産」というイメージをもたれがちです。
しかし、実際には借金や未払い金などのマイナスの財産も存在するため、事前の調査と確認が重要となります。
単純承認に特別な手続きは不要
単純承認は、特別な申立てや書類提出といった手続きを必要としません。
相続の発生を知ってから3ヶ月以内に「相続放棄」や「限定承認」の手続きを行わなければ、単純承認をしたものとみなされます。
また、相続人が相続財産を使用したり、処分したりした場合にも、単純承認の意思があると判断される可能性があります。
なにもしなければ自動的に単純承認となるため、相続内容に不安がある場合は早めに弁護士などの専門家に相談しましょう。
相続で単純承認を選択するメリットとデメリット

単純承認には、メリットだけでなくデメリットも存在します。
したがって、単純承認を選ぶ前には、その良し悪しを正しく理解しておくことが大切です。
・単純承認するメリット
・単純承認するデメリット
以下では、単純承認を選択した場合に得られるメリットと、注意すべきデメリットについてそれぞれ解説します。
単純承認するメリット
単純承認の大きなメリットは、家庭裁判所での申し立てや手続きが不要な点です。
事務的な手間を省けるため、スムーズに相続を進められます。
また、被相続人がプラスの財産を多く保有していた場合に、財産をそのまま受け取れるのもメリットです。
単純承認は「複雑な手続きを避けたい」「財産を積極的に相続したい」という人にとって、有効な選択といえるでしょう。
単純承認するデメリット
単純承認のデメリットは、借金や債務などのマイナスの財産も無条件で相続してしまう点です。
相続人が気づいていなかった借金が後から発覚した場合でも、すでに単純承認していれば、返済義務を負うことになってしまいます。
また、一度単純承認が成立すると、原則として撤回はできません。
とくに被相続人の財産状況が不明確な場合はリスクがあるため、専門家に財産調査を依頼するなどの対策が必要です。
単純承認以外の相続方法

相続には、単純承認のほかにも「相続放棄」や「限定承認」という方法があります。
・相続放棄
・限定承認
これらは、相続する財産に借金などのマイナス要素が含まれている可能性があるときなどに選択する方法です。
以下では、それぞれの方法の概要について解説していきます。
相続放棄
相続放棄とは、被相続人の財産を一切相続しない方法です。
相続放棄が成立すると、プラスの財産もマイナスの財産も一切受け取れなくなります。
この方法は、被相続人に多額の借金がある場合や、相続に一切関与したくない場合などに有効です。
相続放棄を行うには、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。
手続きは相続人単独で進められますが、トラブルを防ぐためにも相続放棄をする旨はほかの相続人に伝えておくことが望ましいです。
限定承認
限定承認とは、被相続人のプラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を引き継ぐ方法です。
限定承認を行えば、相続した財産の価値を超える負債については、相続人が支払い義務を負う必要はなくなります。
被相続人の資産と負債の全体像が不明な場合や、一部相続したい財産がある場合などに有効な方法です。
限定承認を行うには、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に相続人全員で家庭裁判所に申し立てる必要があります。
相続放棄に比べると手続きが複雑なため、限定承認を検討する際は専門家への相談をおすすめします。
自動的に単純承認とみなされるケース

単純承認は、相続人が明確に意思表示をしなくても、一定の条件を満たすと自動的に選択したものとみなされる場合があります。
これは「法定単純承認」と呼ばれ、以下のような行為によって成立します。
・相続の開始を知ったときから3ヶ月が経過した場合
・相続財産を処分した場合
・相続財産を故意に隠したり消費したりした場合
それぞれのケースについて、以下で具体的に確認していきましょう。
相続の開始を知ったときから3ヶ月が経過した場合
相続の開始を知ってから3ヶ月以内に相続放棄や限定承認の手続きを行わなかった場合、自動的に単純承認をしたとみなされます。
「相続の開始を知ったときから3ヶ月」の期間を、熟慮期間といいます。
熟慮期間を過ぎると、相続放棄や限定承認の手続きは行えません。
単純承認によって多額の借金を相続してしまうおそれもあるため、相続財産の調査は早めに行っておく必要があります。
相続財産を処分した場合
相続人が、被相続人の財産のすべてまたは一部を処分した場合も、単純承認をしたものとみなされます。
財産の処分は、相続を前提としている行為と判断されるためです。
たとえば、相続開始後に被相続人の車を売却したり、預金を引き出して使用したりするケースが該当します。
財産の処分を行う前に、その財産が相続対象かどうか、また相続の方針をどうするかを慎重に検討するようにしましょう。
相続財産を故意に隠したり消費したりした場合
相続人が相続財産を隠したり、使い込んだり、故意に財産目録に記録しなかったりした場合は、単純承認とみなされます。
たとえば、ほかの相続人に知らせずに現金を抜き取る行為や、財産の存在を偽って報告しない行為などが該当します。
こうした行為は単なる過失ではなく意図的な行動とされるため、強制的に単純承認となり、その後の撤回も認められません。
トラブルに発展する可能性も高いため、ほかの相続人の合意を得ていない段階では財産に手を付けないようにしましょう。
相続で単純承認すべきか悩んだら専門家に相談しよう

相続には、法律上の取り決めや期限が多数存在します。
相続のルールを知らないままでいると、大きなトラブルにつながる可能性もあるため注意が必要です。
財産調査や単純承認の判断で悩んだときは、弁護士などの専門家への相談を検討しましょう。
相続問題に詳しい専門家であれば、財産の調査や手続きのサポート、相続方法に関するアドバイスなどが可能です。
不安があるときは一人で抱え込まず、早めに専門家の支援を受けましょう。
 
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