相続における被相続人のローンについての考え方
〇この記事を読むのに必要な時間は約8分27秒です。
相続が発生した際、被相続人にローンが残っていた場合、その債務はどのように扱われるのでしょうか。
遺産分割の対象になるのか、それとも別途処理が必要なのか疑問に思う人も多いでしょう。
今回の記事では、相続におけるローン債務の取り扱いや、一人の相続人に承継させる方法などについて詳しく解説します。
相続手続きで後悔しないために、ぜひ最後までご覧ください。
目次
被相続人のローンの取り扱い|遺産分割の対象になる?
被相続人(亡くなった人)にローンが残っている場合、その債務は相続人にどのように引き継がれるのでしょうか。
相続財産には現金や不動産などのプラスの資産だけでなく、ローンや借金といったマイナスの財産も含まれます。
しかし、すべての債務が遺産分割の対象になるわけではありません。
・ローン債務は当然分割される
・遺産分割の対象にはならない
・遺言がある場合でも相続方法は変更できない
以下では、ローン債務の相続に関する基本的な取り扱いについて解説していきます。
ローン債務は当然分割される
被相続人に銀行や消費者金融などのローンや借金があった場合、原則として「当然分割」され、相続人全員が支払い義務を負います。
当然分割とは、各相続人の法定相続分に応じて自動的に分割承継することです。
法定相続分とは、民法で定められている各相続人の遺産の相続割合です。
たとえば、相続人が配偶者と子ども2人である場合、法定相続分は配偶者2分の1、子どもが4分の1ずつとなります。
当然分割が適用される場合、特別な手続きを行わなくても相続開始時点で自動的に分割されます。
遺産分割の対象にはならない
ローンには当然分割が適用されるため、遺産分割協議の対象にはなりません。
遺産分割協議とは、相続人が話し合いによって財産の分配方法を決める手続きです。
この協議は預貯金や不動産などのプラスの財産に対して行われるのが基本であり、ローン債務は対象外となります。
相続人全員が合意をした場合であっても、話し合いによって誰がどれだけ負担するかの取り決めについて、債権者を当然に拘束するものではありません。
遺言がある場合でも相続方法は変更できない
被相続人が遺言を残していた場合でも、ローンの相続方法を自由に変更することは原則としてできません。
遺言には「財産を誰に渡すか」を指定する効力はありますが、ローンなどの債務については、法定相続分に応じて対外的には相続されます。
たとえば、遺言書に「全財産を長男に相続する」と記載がある場合でも、ローンはほかの相続人にも分配されるため注意しましょう。
一人にのみローンを承継させたい場合には、特定の手続きを行う必要があります。
相続人のうち一人にローンを承継させる方法
被相続人のローンは法定相続分に従って相続人全員に分割されますが、状況によっては一人で引き継ぎたいケースもあるでしょう。
このような場合には次の方法を利用することで、相続人のうち一人だけにローンを承継させられます。
・相続放棄を選択する
・免責的債務引受の手続きを行う
それぞれの方法について、以下で詳しく見ていきましょう。
相続放棄を選択する
相続放棄を行うと、最初から相続人ではなかったものとしてみなされるため、ローンを含む債務の負担も消滅します。
相続放棄とは、相続人が被相続人の財産(プラスの財産もマイナスの財産も含む)を一切受け継がない意思を表明する手続きです。
ローンを承継させたい相続人を残して、ほかの相続人が相続放棄を行えば、一人にのみローンを承継させられます。
相続放棄を行うには、相続開始を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述が必要です。
なお、相続放棄を選択するとローンだけでなく、預貯金や不動産といった財産もすべて受け取れなくなるため慎重に検討しましょう。
免責的債務引受の手続きを行う
「免責的債務引受」の手続きを行えば、相続人のうち一人にのみローン債務の負担を集中させられます。
免責的債務引受とは、債権者(金融機関など)の承認を得た上で、旧債務者の債務を新債務者が引き継ぐ手続きです。
ただし、債権者の承認が必要となるため、支払われなくなるリスクを考慮し承認しないケースもあります。
新債務者となる相続人の資金力を示せれば、免責的債務引受が承認される可能性は高くなるでしょう。
相続における住宅ローン債務の取り扱い
被相続人が住宅ローンを組んでいた場合、その債務の取り扱いは次のような状況によって異なります。
・団体信用生命保険に加入している場合
・団体信用生命保険の代わりに生命保険に加入していた場合
・団体信用生命保険や生命保険に加入していない場合
とくに、団体信用生命保険に加入しているかどうかは重要なポイントです。
それぞれのケースにおける住宅ローンの取り扱いを、以下で具体的に解説していきます。
団体信用生命保険に加入している場合
団体信用生命保険(団信)とは、住宅ローン契約者が死亡などした際に、残金の支払いが免除される仕組みの保険です。
基本的に、住宅ローン契約時の団信への加入は必須となっています。
団信に加入していれば、被相続人が亡くなった時点で住宅ローンは完済となり、相続への影響はありません。
ただし、すべての住宅ローン商品で団信加入が義務付けられているわけではないため、契約内容はよく確認しておく必要があります。
団体信用生命保険の代わりに生命保険に加入していた場合
団信への加入が必須ではない住宅ローンを契約する際は、団信の代わりに生命保険に加入するケースもあるでしょう。
被相続人が保険料を支払っていた場合、相続人が生命保険金を受け取ると「みなし相続財産」として相続税の課税対象になる可能性があります。
ただし、生命保険金には相続税の非課税枠があるため、課税対象となるのは「500万円×法定相続人の数」を超えた部分のみです。
住宅ローンの残額に関しては、債務として相続税の課税対象から差し引かれます。
団信に加入していない場合、生命保険金や住宅ローンの残額が相続税額に影響する可能性がある点は押さえておきましょう。
団体信用生命保険や生命保険に加入していない場合
団信や生命保険に加入していない場合、住宅ローンはそのまま債務として相続人に承継されます。
したがって、住宅ローンの残額は被相続人の相続財産もしくは相続人の財産から支払わなければなりません。
期限までに住宅ローンを支払わなかった場合、債権者である金融機関が抵当権を実行する可能性もあるため注意が必要です。
抵当権とは、債権者が担保目的物から優先的に弁済を受けられる権利です。
もし居住している不動産が抵当権の実行によって競売にかけられると、強制退去となる可能性があります。
遺産相続でローンに関して不安を感じた場合は専門家に相談しよう
被相続人のローン債務は、原則として各相続人が法定相続分のとおりに負担することになります。
対外的に有効な分割方法は、遺言書や遺産分割協議では変更できないため、一人のみに承継させたい場合には相続放棄や免責的債務引受の検討が必要です。
また、住宅ローンに関しては、団体信用生命保険に加入しているかどうかで相続時の取り扱いが異なります。
遺産相続手続きにおけるローンの取り扱いで悩んだら、司法書士や税理士といった専門家への相談を検討しましょう。
相続手続き全体の相談をしたい場合や、相続人間でトラブルが発生している場合には弁護士へ相談するのが望ましいです。
専門家から状況に応じた適切なアドバイスを受けることで、不利益を避け、スムーズに手続きを進められるでしょう。

弁護士法人ふくい総合法律事務所

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