相続にあたり財産を渡したくない人に戸籍から抜くことはできるのか?
〇この記事を読むのに必要な時間は約8分30秒です。
相続にあたり、「財産を渡したくない人を戸籍から抜きたい」と考える人は少なくありません。
親族間でトラブルがある場合や特定の相続人にだけ財産を渡したい場合など、相続をめぐる悩みはさまざまです。
しかし、結論から言えば、特定の人の戸籍を一方的に抜いて相続権をなくすことはできません。
今回の記事では、戸籍を抜けない理由や、「相続欠格」「相続廃除」といった法的手段について解説します。
相続に関する正しい知識を身につけるためにも、ぜひ参考にしてみてください。
目次
相続させたくない人の戸籍を抜くことはできない
相続させたくない人を「戸籍から抜く」ことはできません
主なポイントは、以下のとおりです。
・戸籍を抜く制度は存在しない
・戸籍を分ける「分籍」は相続権に影響しない
・特別養子縁組は相続させないための手段ではない
これらの理由について、以下で詳しく解説していきます。
戸籍を抜く制度はない
日本の戸籍制度には、相続させたくない人を一方的に戸籍から抜く方法はありません。
戸籍は家族の身分関係を公証するものであり、相続権を直接コントロールする役割はないためです。
たとえ「この人を家族と認めたくない」と思ったとしても、勝手に戸籍から外すことはできません。
また、戸籍の変更は出生・結婚・養子縁組・死亡など、限られた手続きでのみ認められています。
相続を避ける目的による戸籍の操作はできない点は、押さえておきたいポイントです。
戸籍から抜ける「分籍」は相続に関係しない
「分籍」という制度を利用すれば、親の戸籍から独立して新しい戸籍を作成できます。
しかし、この手続きは単に戸籍上の管理方法を変えるだけであり、相続関係には影響しません。
たとえば、親の戸籍から分籍したとしても、子どもである以上は親が亡くなった際に相続人となります。
分籍は成人後の独立や苗字を変更したい場合などに利用される制度であり、相続対策のために使えるものではありません。
特別養子縁組は相続させないために利用する制度ではない
特別養子縁組は、子どもが養親との間でのみ親子関係を結び、実親との親族関係を法律上消滅させる制度です。
特別養子になった子どもは、実親の相続権を失います。
しかし、この制度は養子となる子どもの福祉を守る目的で設けられているものであり、相続対策での利用は想定されていません。
また、特別養子縁組には家庭裁判所の許可などが必要なため、不適当と判断されれば認められない可能性があります。
戸籍を抜く以外で相続させない方法①「相続欠格」
相続させたくない人を法的に相続人から外す方法の一つとして考えられるのが、「相続欠格」です。
戸籍から抜けるわけではありませんが、相続欠格になると相続人ではなくなります。
・相続欠格とは?
・相続欠格となる5つのケース
・相続欠格の注意点
相続欠格の制度や適用されるケース・注意点などについて、以下で具体的に確認していきましょう。
相続欠格とは?
相続欠格とは、民法で定められた一定の行為をした相続人が、自動的に相続権を失う制度です。
家庭裁判所への申し立てや被相続人の意思表示などは不要で、欠格事由に該当する事実があればただちに相続権がなくなります。
ただし、相続欠格となる行為が明らかでない場合や本人が認めない場合は、地方裁判所で訴訟を提起する必要があります。
相続欠格となる5つのケース
民法で定められた相続欠格に該当する5つのケースは、以下のとおりです。
・被相続人やほかの相続人を故意に死亡させ、または死亡させようとして刑に処された場合
・被相続人が殺害されたと知りながら、告発または告訴しなかった場合
・詐欺や脅迫によって被相続人の遺言作成・取り消し・変更を妨害した場合
・詐欺や脅迫によって被相続人に遺言作成・取り消し・変更をさせた場合
・遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した場合
これらのいずれかに該当する行為をした場合、相続権は当然に消滅します。
なお、相続欠格となるのは重大な非行が行われたケースに限られるため、単に素行が悪い・仲が悪いなどの理由では適用されません。
相続欠格の注意点
相続欠格は自動的に適用される制度ですが、「欠格事由の疑い」があるだけでは該当しません。
欠格事由があったことが明らかであり、本人が認めている場合、または訴訟によって認められた場合に適用されます。
また、相続欠格になった場合でも、代襲相続が発生する点に注意が必要です。
代襲相続とは、本来相続人となるはずの特定の親族が相続権を失っている場合に、その子どもが代わりに相続人となることです。
相続欠格者に子どもがいる場合は、代襲相続によって子どもに相続権が引き継がれる可能性があります。
戸籍を抜く以外で相続させない方法②「相続廃除」
相続させたくない人を相続人から外すもう一つの方法は、「相続廃除」です。
相続廃除は相続欠格とは異なり、被相続人の行動によって成立する手続きとなります。
・相続廃除とは?
・相続廃除できるのは被相続人のみ
・相続廃除できる条件
相続廃除の制度や仕組みについて、以下で詳しく解説していきます。
相続廃除とは?
相続廃除とは、被相続人が家庭裁判所の審判を経て、相続人の相続権を奪う制度です。
被相続人に対して著しい非行を行った相続人に財産を渡さないための制度として、民法で定められています。
相続欠格が自動的に相続権を失う制度であるのに対し、相続廃除は被相続人の意思表示によって成立する点が大きな違いです。
相続廃除できるのは被相続人のみ
相続廃除の申し立てができるのは、財産を遺す本人である被相続人だけです。
相続人や第三者が勝手に申し立てることはできません。
被相続人が亡くなった後でも、遺言書で「相続廃除の意思」を示していれば、遺言執行者が家庭裁判所に申し立てできます。
被相続人自身の意思が確認できない場合は相続廃除の手続きができないため、生前に準備しておく必要があります。
相続廃除できる条件
相続廃除が認められるには、以下のいずれかの条件に該当する必要があります。
・被相続人に対する虐待があった場合
・被相続人に対する重大な侮辱があった場合
・そのほか著しい非行があった場合
単に性格が合わない、過去に口論したといった程度では相続廃除は成立しないため注意が必要です。
また、相続廃除する相手は、配偶者・子ども(孫)・父母・祖父母のいずれかに限られます。
兄弟姉妹は対象外となるため、兄弟姉妹に財産を渡したくないと考えている場合は遺言書などで別途対策しましょう。
相続廃除の注意点
相続廃除では家庭裁判所が審査を行うため、簡単に認められるわけではありません。
被相続人に対する虐待や非行があったことを、論理的かつ具体的に主張する必要があります。
また、相続欠格と同様に、代襲相続によってその子どもに相続権が引き継がれる可能性もあります。
相続廃除が認められたとしても、完全に財産承継を断てないケースがある点には注意しておきましょう。
財産を渡したくない相続人がいる場合は戸籍を抜く以外の対策を検討しよう
相続をめぐるトラブルを防ぐには、感情的な対応ではなく、法律にもとづいた方法を選択する必要があります。
一方的に戸籍を抜くことはできないため、相続させたくない相手がいる場合は、法的に認められた制度の利用を検討しましょう。
対象の相続人に重大な非行などがある場合は、「相続欠格」や「相続廃除」を適用できる可能性があります。
ただし、どちらにも適用条件があり、希望のとおりに進むとは限りません。
悩んだときには早い段階で弁護士などの専門家に相談し、状況に応じたアドバイスを受けましょう。

弁護士法人ふくい総合法律事務所

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