相続はプラスの財産だけもらうことは可能?
〇この記事を読むのに必要な時間は約8分50秒です。
相続と聞くと、「財産がもらえるもの」というイメージを持つ人が多いでしょう。
しかし、相続には預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金や未払いの税金などのマイナスの財産も含まれます。
「できればプラスの財産だけ相続したい」と考えたときに検討すべきなのが、「限定承認」という制度です。
今回の記事では、限定承認を活用してプラスの財産を相続する方法や、手続きの注意点について解説します。
相続で後悔しないためにも、ぜひ参考にしてみてください。
目次
プラスの財産だけを相続することはできるのか?
結論からいえば、プラスの財産だけに絞って相続することはできません。
しかし、「限定承認」を選択すれば、プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を相続できるようになります。
・限定承認とは
・限定承認と相続放棄の違い
・マイナスの財産だけ相続放棄することはできない
以下では、限定承認の仕組みや相続放棄との違いについて確認していきましょう。
限定承認とは
限定承認とは、相続財産のうちプラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を相続する手続きです。プラスの財産より借金の方が多かった場合でも、相続人の自己資産から借金を返済する必要はありません。
限定承認は、主に以下のようなケースで選択されます。
・プラスの財産とマイナスの財産がどのくらいあるのか不明な場合
・被相続人(亡くなった人)が複数箇所から借金をしていて内訳が把握できない場合
・自宅や美術品など相続したい財産がある場合
相続人が複数いる場合、一人の判断だけでは限定承認の手続きを進められないため、よく話し合って検討しましょう。
限定承認と相続放棄の違い
限定承認と混同されやすい手続きが「相続放棄」です。
どちらも借金を回避するための手段として利用されますが、内容は大きく異なります。
相続放棄は、相続そのものをしない選択です。
プラスの財産もマイナスの財産もすべて放棄するため、財産は一切受け取れなくなります。
一方で限定承認は、プラスの財産の範囲内で債務を負うため、プラスの方が多ければ財産を受け取ることも可能です。
相続放棄は相続人が単独で手続きを行えますが、限定承認は相続人全員で手続きを進める必要がある点も異なります。
マイナスの財産だけ相続放棄することはできない
マイナスの財産だけを相続放棄して、プラスの財産だけを受け取ることはできません。
相続には次の3つの方法があり、いずれかを選択する必要があります。
相続方法 | 概要 |
単純承認 | プラスの財産とマイナスの財産をそのまま相続する |
相続放棄 | プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しない |
限定承認 | プラスの財産の範囲でマイナスの財産を相続する |
「いいとこ取り」ができるわけではないため、どの方法が適しているかは状況に応じて慎重に判断しましょう。
限定承認を選択するメリット
限定承認のメリットとして挙げられるのは、次の2つです。
・マイナスの財産はプラスの財産の範囲内でのみ相続できる
・特定の財産を手放さずに済む
財産全体の状況が不透明なときでも、「損はしたくない」という相続人の希望に応えられる制度となっています。
それぞれのメリットについて、以下で詳しく見ていきましょう。
マイナスの財産はプラスの財産の範囲内でのみ相続できる
限定承認の最大のメリットは、「借金を背負わされるリスクがない」という点です。
被相続人が多額の借金を残していたとしても、限定承認を選択すれば相続人自身の資産から返済する義務はなくなります。
たとえば、プラスの財産が200万円、マイナスの財産が300万円あったケースで考えてみましょう。
この場合、限定承認をすれば200万円の範囲内で借金を返済すれば済み、残りの100万円については支払う必要はありません。
財産の内容が完全に把握できていないときでも、相続人の経済的損失を防ぎ、安心して相続の手続きを進められます。
特定の財産を手放さずに済む
もう一つのメリットは、「特定の大切な財産を手放さずに済む可能性がある」という点です。
たとえば、実家や思い出の品など、どうしても手放したくない財産がある場合には限定承認が有効な選択肢になります。
相続放棄を選ぶとすべての財産を放棄するため、こうした特定の財産も手元に残すことができません。
一方、限定承認であれば、「先買権」という権利の行使によって必要な財産のみを取得できます。
ただし、先買権で財産を取得する場合、買い戻すための資金を用意する必要がある点に注意しましょう。
プラス面だけではない!限定承認の注意点
限定承認を選択する際には、注意すべき点がいくつかあります。
・相続人全員で家庭裁判所に申し立てる必要がある
・限定承認を選択できる期間には制限がある
・単純承認となる行動に注意が必要
・手続きが複雑になる
制度の仕組みや手続きが複雑であるため、リスクも理解した上で検討しましょう。
各注意点について、以下で具体的に解説していきます。
相続人全員で家庭裁判所に申し立てる必要がある
限定承認を行うには、相続人全員で家庭裁判所に申し立てる必要があります。
相続人の中に連絡が取れない人がいたり、意見が合わなかったりすると、限定承認は成立しません。
そのため、状況によっては限定承認を行うのが難しいケースもあります。
相続人が複数いる場合は、早い段階で全員と連絡を取り、意思確認を行うようにしましょう。
限定承認を選択できる期間には制限がある
限定承認を行うには、相続開始(被相続人の死亡)を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てが必要です。
この期間を過ぎると自動的に単純承認とみなされ、すべて相続しなければならなくなる可能性があります。
3ヶ月という期間は「熟慮期間」と呼ばれ、相続するかどうかを判断するために設けられています。
しかし、財産調査などには時間がかかるケースも多いため、間に合いそうにない場合は弁護士などの専門家への相談も検討しましょう。
単純承認となる行動に注意が必要
熟慮期間内であっても、相続財産を勝手に処分したり使ったりすると、「単純承認」とみなされる可能性があります。
これは、相続人が「すべての財産と負債を引き継ぐ意思を示した」と判断されるためです。
たとえば、被相続人の預金を引き出して使ったり、不動産を売却したりした場合、限定承認は認められなくなるおそれがあります。
限定承認を考えている場合は、安易に相続財産に手をつけるのは避けましょう。
手続きが複雑になる
限定承認は、単純承認や相続放棄と比べて必要な書類や手続きが多く、非常に手間がかかります。
とくに相続財産に不動産が含まれている場合は、競売を申し立てて換金する必要があるため手続きがさらに複雑になります。
申し立てから手続きが完了するまで、1年から2年程度かかるケースも少なくありません。
そのため、限定承認を検討する際は、弁護士や司法書士など専門家のサポートを受けることが望ましいです。
相続の悩みは専門家への相談がおすすめ
「プラスの財産だけ相続したい」と考えるのは自然なことですが、マイナスの財産だけ相続しないという選択はできません、
マイナスの財産による負担を軽減したい場合には、限定承認の手続きをおすすめします。
しかし、限定承認には相続人全員の合意が必要となり、手続きも非常に複雑です。
とくに財産の種類が多い場合や、ほかの相続人と揉めている場合は、個人の判断だけで進めるのはリスクが高いといえます。
限定承認を検討する際は、司法書士や弁護士・税理士といった専門家への相談が有効です。
専門家のサポートを受けられれば、自分の状況に合った最善の手続きを選択でき、トラブルを回避しやすくなります。
限定承認の選択には期限もあるため、できるだけ早い段階で専門家に相談し、後悔のない相続を目指しましょう。

弁護士法人ふくい総合法律事務所

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