株式の相続の手続きの流れ。売却方法や注意点
〇この記事を読むのに必要な時間は約10分7秒です。
身内が亡くなったとき、思いがけず株式を相続することになるケースがあります。
相続財産に株式が含まれている場合、その取り扱いには専門的な手続きが必要となるため注意が必要です。
今回の記事では、株式の相続に関する基本的な手続きの流れや評価方法、注意点について解説します。
株式の相続で後悔しないためにも、ぜひ参考にしてみてください。
目次
株式の基本的な相続手続きの流れ
株式を相続する際の基本的な手続きの流れは、次のとおりです。
・遺言書の有無を確認し、相続人と相続財産を調査する
・準確定申告を行う
・相続人全員で遺産分割協議を進める
・株式の名義変更をする
・相続税申告と納税を行う
手続きを誤ると相続トラブルや税務上の不利益を被る可能性もあるため、計画的に進めましょう。
それぞれの手続きについて、以下で詳しく解説していきます。
遺言書の有無を確認し、相続人と相続財産を調査する
株式の相続において最初に行うべきなのは、故人が遺言書を残しているかどうかの確認です。
遺言書の内容によって相続の方法や分配が大きく変わるため、最優先で確認する必要があります。
手書きの遺言書が見つかった場合は、家庭裁判所で「検認」の手続きを行い、正式な内容を確定させましょう。
遺言書がない場合は、法定相続人を調査し、誰が相続権をもつかを明確にします。
また、株式を含めた相続財産の内容を一覧化し、全体像を把握することも重要です。
この調査が不十分だと、誤った手続きや後々のトラブルにつながるリスクがあるため、丁寧な確認が求められます。
準確定申告を行う
準確定申告とは、確定申告を必要とする立場の人が亡くなった場合に、相続人が代わりに行う手続きです。
生前に株式の配当金を受け取っていたり、株式を売却して所得を得ていたりする場合は準確定申告が必要となるケースがあります。
準確定申告は、相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内に行わなければなりません。
ただし、証券口座の種類によっては所得税を差し引いた金額が入金されるため、準確定申告は不要となります。
自身での判断が難しい場合は、税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
相続人全員で遺産分割協議を進める
遺言書がない場合や、遺言書にすべての財産についての記載がない場合は、相続人全員で「遺産分割協議」を行います。
遺産分割協議の目的は、株式を含めた相続財産を誰がどのように相続するかを決定することです。
協議がまとまったら「遺産分割協議書」を作成し、署名と押印を行います。
なお、相続人全員の合意がなければ成立しないため、ひとりでも納得しない相続人がいれば遺産分割は行えません。
相続人間でトラブルが生じている場合には、弁護士に相談しながら手続きを進めましょう。
株式の名義変更をする
遺産分割が完了したら、相続した株式の名義変更を行います。
株式が証券会社で管理されている場合は、その証券会社に問い合わせて名義変更手続きを申し出ます。
被相続人が証券口座を開設していなかった場合は、新たに開設した上で名義変更を行う必要があるため注意が必要です。
また、非上場株式の場合、株式を発行した会社によって手続きが異なる可能性があります。
この場合は、早めに株式を発行した会社に問い合わせて、名義変更の方法を確認するようにしましょう。
相続税申告と納税を行う
相続した株式を含む相続財産の合計額が基礎控除額を超える場合は、相続税の申告と納税が必要です。
相続税の基礎控除額の計算式は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。
申告期限は相続開始を知った日の翌日から10ヶ月であるため、間に合うように手続きを進めましょう。
申告の際には、株式の評価額を適切に算出し、ほかの財産とあわせて全体の課税額を計算します。
上場株式と非上場株式では評価方法が異なるため、正確な評価が求められます。
相続する株式の評価方法とは?
株式の相続においては、相続税の申告や遺産分割協議のために、株式の「評価額」を正しく把握する必要があります。
上場株式の場合は、相続税申告の場合、以下のいずれかの価格のうち、もっとも低い価格を採用して評価額を算出します。
・被相続人が亡くなった日の終値
・被相続人が亡くなった月の終値平均
・被相続人が亡くなった月の前月の終値平均
・被相続人が亡くなった月の前々月の終値平均
遺産分割協議においては、実務上、直近の最終価格(終値)で評価するのが原則になります。
証券会社から残高証明書を取り寄せておくことで、上記の価格のほか、口座の残高や保有している株数の把握が可能です。
一方で、非上場株式は市場価格が存在しません。
会社の種類や規模などによって、「純資産価額方式」「類似業種比準方式」「配当還元方式」の3つの評価基準があります。
評価基準の選択や計算には専門知識が必要となるため、非上場株式を評価する際は税理士などの専門家への相談をおすすめします。
相続した株式を売却する場合の手続き
相続した株式は、名義変更が完了すれば売却できます。
ただし、売却の方法によって手続きが異なるため、自分にとって最適な売却方法を選ぶ必要があります。
・相続人が個別に売却する
・相続人全員でまとめて売却する
それぞれの方法について、以下で詳しく見ていきましょう。
相続した人が個別で売却する方法
一つ目の方法は、株式を取得した相続人が、持分を自分名義に変更した上で売却する方法です。
名義変更が済んでいれば、通常の株式取引と同様に証券会社の口座から売却できます。
個別で売却する方法は、各相続人がそれぞれの判断で売却時期や金額を決定できるため、自由度が高いのが特徴です。
ただし、売却時期によっては損をしてしまう可能性もあるため慎重に判断しましょう。
すべての株式をまとめて売却する方法
相続人全員が株式の売却に合意している場合、すべての株式を売却し、得た金額を分配する方法もあります。
すべての株式を売却する際の手順は、以下のとおりです。
1.相続人の中で代表者となる人を決定する
2.代表者以外の相続人は、株式売却の委任状を作成し代表者に提出する
3.代表者は証券口座を開設し、移管手続きを行う
4.株式を売却して得た現金を各相続人に分配する
売却手続きを行うのは代表者だけで済むため、自分で手続きを行うのが難しい相続人がいる場合などに適しています。
株式を相続する際に知っておきたい注意点
株式の相続では、押さえておくべき重要なポイントがあります。
・相続後に売却すると譲渡所得税が課される
・非上場株式は証券所での売却ができない
・未受領配当金の受け取りには時効がある
これらを見落とすと、予想外の課税や損失、不利益を被る可能性があります。
各注意点について、以下で具体的に確認していきましょう。
相続後に売却すると譲渡所得税が課される
相続した株式を売却すると、その売却益に対して所得税や住民税といった譲渡所得税が課税されます。
納税額の計算式は、「株式の売却益×20.315%」です。
株式の売却益は、「売却金額-売却手数料-取得費」で算出できます。
取得費については相続人が取得した時点での評価額ではなく、被相続人が取得した時点の評価額となる点に注意が必要です。
取得時点の評価額は、証券会社が発行する取引報告書などから確認しましょう。
特定できない場合には、「売却代金の5%」を取得費として計算できます。
非上場株式は証券所での売却ができない
非上場株式を相続した場合、上場株式と違って証券取引所での売却ができません。
市場での取引が存在しないため、売却先や価格の決定に制限があるのが特徴です。
売却する場合は、発行会社に買い取ってもらうか、ほかの株主や第三者に譲渡する必要があります。
しかし、会社の定款や契約によっては、譲渡に制限が設けられているケースがあります。
まずは発行会社に問い合わせて、譲渡制限の有無などについて確認するようにしましょう。
未受領配当金の受け取りには時効がある
未受領配当金の受け取りには、時効が定められています。
未受領配当金とは、被相続人が生前に受け取っていなかった株式の配当金です。
未受領の配当金も相続財産の一部に含まれるため、遺言書による指定がない場合は遺産分割協議によって分け方を決定します。
配当金の受領期限は民法上10年とされていますが、会社によって独自に10年よりも短い期間が定められているケースがあります。
時効が成立すると請求しても支払ってもらえなくなるため、配当金の有無は早めに確認し請求するようにしましょう。
株式の相続で悩んだときは専門家に相談しよう
株式の相続は、手続きの順序や税務上の扱いが複雑になるケースが多くあります。
判断を誤ると、余計な税負担が発生したり、後から修正が必要になったりする可能性もあるため注意が必要です。
不安や疑問を感じたときは、早めに弁護士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
大切な財産を適切に引き継ぐためにも、積極的に専門家のサポートを活用しましょう。

弁護士法人ふくい総合法律事務所

最新記事 by 弁護士法人ふくい総合法律事務所 (全て見る)
- 10月18日(土)の休日相続・遺言無料相談会の受付は終了しました。 - 10月 17, 2025
- 株式の相続の手続きの流れ。売却方法や注意点 - 10月 17, 2025
- 相続税の基礎控除について。計算式と注意点 - 10月 12, 2025
弁護士コラムの最新記事
- 相続税の基礎控除について。計算式と注意点
- PayPayやSuicaなどの電子マネーの相続について
- 相続はプラスの財産だけもらうことは可能?
- 「相続・贈与・売買」の違い
- 内縁の妻に相続権はない?財産を渡す方法は?
- 甥姪は相続財産を取得できる?法定相続人になる?
- 相続税の申告期限はいつまで?遅れた場合は?延長はできる?
- 外国人配偶者がいる際の相続について
- 相続財産を全て配偶者が受け取る場合のポイントと注意点
- 相続にあたり財産を渡したくない人に戸籍から抜くことはできるのか?
- 相続のプロセスと手続きについて解説
- 相続の相談は弁護士?税理士?対応できる手続きの違い
- 連帯債務がある場合の相続への影響は?
- ペットに遺産を相続できる?
- 相続手続きの代理人を立てるケースと分類
- 遺産相続でのトラブルで裁判に発展するケースとは?
- 相続手続きに印鑑証明は必要?取得方法は?
- 養子に相続権はある?注意点は?
- 相続排除とは?認められる条件や手続きは?
- 相続における兄弟姉妹の遺留分は認められない!その理由は?
- 相続登記の義務化についての改正【具体的な内容について】
- 相続手続の後に出てきた財産の対応方法
- 現金のみの相続はどのように行う?預貯金とは違うの?
- 相続における被相続人のローンについての考え方
- 相続人と連絡がとれない場合の問題と対策
- 相続問題における裁判費用はどの位?
- いとこの遺産相続はできるのか?例外的にできるケース
- 相続財産調査とは?財産調査が必要な理由
- 相続の代償分割とは?メリットと注意点
- 相続が発生した際に知っておくべき銀行口座の解約方法
- 相続の持ち戻し特別受益の持ち戻しとは?計算方法なども解説
- 相続人が嘘をつくとどうなる?具体ケースと対処法
- 相続における利益相反とは?該当ケースと対処方法
- 相続をきっかけに財産を取り戻す返還請求(不当利得返還請求)とは?
- 相続問題の弁護士の選び方
- 相続人から訴えられたときの流れと注意点
- 相続人と連絡が取れないリスクと対処法
- 特別受益とは?計算方法や該当ケースを解説
- 相続預金の引き出し方|必要な書類は?
- 財産目録とは?記載内容と作成時のポイント
- 相続について無料で相談できる主な機関
- 相続の限定承認とは?内容や手続きを分かりやすく解説
- 相続放棄の基本的な流れとメリット・デメリット
- 相続税で気を付けておきたいペナルティ
- 遺産相続トラブル事例と防ぐポイント
- 相続の無料相談はどこにすべき?6つの相談先と特徴
- 相続欠格とは?相続権を失う5つの欠格事由
- 配偶者の法定相続分について|配偶者控除とは?
- 相続における遺言書の作成方法|どのような効果がある?
- 相続の遺産調停の基本的な流れポイント
- 相続の遺産分割協議書とは?作成手順は?
- 相続手続きはどこに依頼できる?選び方のポイントは?
- 相続は弁護士に相談すべき?依頼するメリット・デメリット
- 相続による土地の名義変更の流れ
- 相続財産に借金がある場合はどうする?借金の調査方法も解説
- 相続登記の登録免許税とは?計算方法や納付方法について解説
- 相続税における土地評価方法を解説|基本の流れや算定方式
- 相続税の配偶者控除とは?計算方法や手続きについて
- 相続手続きに必要な戸籍謄本の手続き・種類・取り方
- 相続の順位と遺産分割の割合
- 同居は相続に有利になる?寄与分の主張と認められるための要件
- 相続財産が少ない場合のポイント
- 相続の財産調査の対象は?自分で行える?
- 相続開始前3年以内の贈与は相続税の対象?対象外?2024年からの変更点は?
- 相続が少ない場合は手続きが必要?
- 相続手続きは自分でできる?自分で進める流れとデメリット
- 相続手続にかかる弁護士費用はいくら?
- 相続は税理士?弁護士?どの専門家に相談すべき?
- 相続額が少ない場合の申告は?気を付けるべき注意点
- 相続の遺産分割協議書とは?作成の流れや書き方
- 相続手続きの期限一覧|手続きごとの期限
- 相続人が認知症の場合の対応|成年後見制度のポイント
- 遺産相続手続の時効は?手続き別の時効
- 相続発生時に確定申告は必要?行わなければいけないケースは?
- 不動産相続の流れと種類
- 相続と贈与の違い
- 相続の基礎控除とは?計算方法や特例についても解説
- 遺産相続の遺留分とは?遺留分の適用範囲
- 相続で揉めるケースと原因、トラブルを回避するためのポイント
- 相続発生時のやることリスト
- 相続の相談先一覧と選び方
- 相続の暦年課税とは?メリットや相続時精算課税との違い
- へそくりに相続税はかかる?相続税申告の注意点
- 遺産分割調停の流れ