相続財産の基本知識についてわかりやすく解説
〇この記事を読むのに必要な時間は約9分24秒です。 
親族が亡くなり相続が発生した際、まず考えなければならないのが「相続財産」の内容です。
誰がどの財産をどのように受け継ぐのかを明確にすることは、遺族間のトラブルを防ぐうえでも重要です。
しかし、相続財産には現金や不動産といった「プラスの財産」だけでなく、借金などの「マイナスの財産」も含まれます。
今回の記事では、相続財産に含まれる財産の区別や課税対象となる財産など、基礎的な知識をわかりやすく解説します。
相続に不安を感じている人や、相続手続きの準備をはじめたい人は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
相続財産(遺産)とは?

相続財産とは、亡くなった人(被相続人)が生前に所有していた財産や権利・義務のうち、相続人に引き継がれるものを指します。
「財産」というと、預貯金や不動産などプラスの財産をイメージする人が多いでしょう。
しかし、相続財産には借金や未払い金などマイナスの財産も含まれます。
相続は被相続人の財産を受け継ぐだけでなく、債務や責任も引き継ぐ行為であるため、慎重な確認と判断が必要です。
以下では、こうした相続財産が実際にどのように分配されるのか、基本的な仕組みを解説します。
相続財産の基本的な分配方法
相続財産の分配については、遺言書がある場合は遺言の内容が最優先されます。
遺言には法的な効力があり、記載されたとおりに財産が分けられるのが原則であるためです。
ただし、一部の相続人には「遺留分」という最低限保証された遺産の取り分があり、遺言でも遺留分を侵害することはできません。
一方、遺言がない場合は、相続人全員が参加する「遺産分割協議」によって相続財産の分配方法を決定します。
民法では被相続人との関係性によって各相続人の相続割合(法定相続分)が定められており、それに従って分配するのが一般的です。
しかし、必ずしも法定相続分のとおりに分配する必要はなく、相続人全員の合意があれば自由な分け方を決定できます。
相続財産に含まれる財産

相続の対象となる財産は、大きく次の2つに分けられます。
・プラスの相続財産
・マイナスの相続財産
財産を正しく把握しないまま相続を進めると、後になって予期せぬ借金が発覚するリスクもあるため、事前の調査は不可欠です。
具体的にどのような財産が対象となるのか、以下で詳しく見ていきましょう。
プラスの相続財産
プラスの相続財産とは、相続人が受け取れる資産です。
具体的には、以下のようなものがプラスの相続財産に該当します。
・現金
・預貯金
・土地や建物などの不動産
・株式や投資信託などの有価証券
・自動車や貴金属、美術品などの動産
・貸付金や売掛金
・商標権・著作権・特許権などの権利
これらの財産には市場価値や評価額があるため、相続税の課税対象です。
相続の際にはすべての財産を漏れなくリストアップし、評価額を適正に算出する必要があります。
マイナスの相続財産
マイナスの相続財産とは、被相続人が亡くなった時点で負っていた義務や債務などです。
マイナスの相続財産の例としては、以下のようなものが挙げられます。
・借金や住宅ローンなどの負債
・未払いの税金や公共料金
・クレジットカードの未払い残高
・被相続人が連帯保証人になっていた場合の保証債務
・未払いの医療費
・滞納している家賃や地代
相続人は「相続放棄」や「限定承認」といった手続きをすることで、負債の引き継ぎを回避または制限できます。
相続放棄や限定承認は「相続の開始を知ったときから3ヶ月以内」に行う必要があるため、遺産の全体像は早めに確認しましょう。
相続財産に含まれない財産

すべての財産が相続の対象になるわけではなく、相続財産に含まれないものも存在します。
相続財産に含まれない主な財産は、次のとおりです。
・一身専属の権利・義務
・生命保険金や死亡退職金
・祭祀財産
それぞれの財産の詳細について、以下で一つずつ解説していきます。
一身専属の権利・義務
一身専属の権利や義務とは、個人にのみ帰属し、他人に引き継がれない性質のものです。
その人の人格や身分に密接に関わるため、被相続人が亡くなった時点で効力を失い、相続の対象外とされます。
代表的な一身専属の権利・義務は、以下のとおりです。
・年金受給権
・生活保護受給権
・離婚請求権や婚姻関係の権利義務
・親権
・使用貸借契約の使用権
・芸術家の人格権(著作人格権など)
・雇用契約による権利義務
ただし、未支給の年金や未払い給与など、一部の金銭債権については相続財産として扱われるケースがあります。
個別に判断が必要なため、不安がある場合は弁護士などの専門家に相談しましょう。
生命保険金や死亡退職金
生命保険金や死亡退職金は、原則として相続財産には含まれません。
これらは受取人が指定されており、民法上は「受取人固有の財産」として扱われるためです。
ただし、受取人の指定がない場合は、相続財産として扱われる可能性があります。
また、相続人が受取人として指定されている場合は、相続税の課税対象となります。
受取人が誰になっているかによって扱いが異なるため、保険の契約内容や退職金の規定をよく確認しておきましょう。
祭祀財産
祭祀財産(さいしざいさん)とは、先祖を供養するために使用される特別な財産です。
具体的には、系譜・墓地・墓石・仏壇・仏具・位牌などが該当します。
これらの祭祀財産は通常の相続財産とは異なり、「祭祀主宰者」と呼ばれる人物に引き継がれます。
祭祀主宰者は、被相続人が指定した人物、もしくは家族の中での慣習や合意により決定されることが一般的です。
相続人同士の話し合いでは決定できない場合は、家庭裁判所に申し立てて主宰者を決定します。
相続時のトラブルを避けるためには、相続発生前に誰が承継するかを話し合っておくことが望ましいです。
相続財産以外で相続税が課税される財産

相続税は、民法上の「相続財産」だけに課税されるわけではありません。
相続や遺贈によって直接引き継がれた財産ではないものの、制度上「相続税の課税対象」とされる財産があります
課税対象となる相続財産以外の代表的な財産の例は、次のとおりです。
・みなし相続財産
・相続開始前の3年以内に被相続人から贈与された財産
・相続時精算課税制度を利用して被相続人から贈与された財産
・被相続人が管理していた家族名義の預金(名義預金)
これらの財産を相続税の計算から除外してしまうと、申告漏れとみなされる可能性があるため注意が必要です。
以下では、これらの中でもとくに重要な「みなし相続財産」について解説していきます。
みなし相続財産とは?
みなし相続財産とは、民法上の相続財産ではないものの、被相続人の死亡によって得られることから相続税の課税対象となる財産です。
形式的な相続ではなくても、実質的に相続と同様の経済的利益を受けるため、課税が行われる仕組みになっています。
代表的なみなし財産の一例は、以下のとおりです。
・被相続人が契約し、相続人が受取人となっている生命保険金
・勤務先から支払われる死亡退職金(死亡後3年以内に確定した支給)
・一定の金額を超えて支払われた弔慰金や香典など
・被相続人が保険料を負担し、被相続人以外が被保険者となっている生命保険契約に関する権利
これらの財産には一定の「非課税限度額」が設定されている場合もあり、全額が課税されるとは限りません。
たとえば、生命保険金であれば「500万円 × 法定相続人の数」までが非課税です。
みなし相続財産は見落としが発生しやすいため、相続税申告時には注意深く確認する必要があります。
相続財産の判断や調査方法で悩んだときは専門家に相談しよう

相続手続きを進めるうえで、相続財産の内容を正しく調査することは非常に重要です。
財産の内容や範囲が曖昧なまま手続きを進めると、協議のやり直しや税金の申告漏れなど、思わぬトラブルを招くおそれがあります。
とくに、負債の調査や相続税の計算を誤ると、経済的なリスクが発生する可能性もあるため注意が必要です。
相続財産に関して疑問や不安を感じたときは、早めに弁護士や税理士といった専門家への相談を検討しましょう。
相続問題に詳しい専門家に相談すれば、個別の事情や希望に沿ったアドバイスを得られます。
円滑で後悔のない相続を実現するためにも、専門家のサポートをうまく活用してみてください。
弁護士法人ふくい総合法律事務所
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